チーム分析から紐解くポジショナルプレー#5
現代サッカーの主流な戦術的アプローチの1つとなっているポジショナルプレー。ただ、採用しているチームであっても実際にピッチ上で実践しているサッカーには差異があり、その実像を理解するのはそう簡単ではない。そんなポジショナルプレーの実像を、具体的なチームの分析を通してらいかーると氏が紐解いていく。第4回はバイエルン。若き名将ユリアン・ナーゲルスマンによる「狭いポジショナルプレー」は、果たしてポジショナルプレーと言えるのか。その特徴を掘り下げる。
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細々と続いているポジショナルプレーの連載です。ピッチで起きている具体的な現象からポジショナルプレーを再定義することがこの連載の目的となっています。今回のテーマはバイエルンです。信じられないスタッツを試合ごとに表現しながらも、最近のリーグ戦では引き分けが続き、結局のところ今季のバイエルンはどうなの??とよくわからない状況となっています。
ポジショナルプレーと言えば、ボール保持による試合支配を原則とするチームが多いですが、今季のバイエルンは最小の横幅で中央突破と最速のトランジションを掲げています。果たしてそのようなプレースタイルとポジショナルプレーにはどのような因果が存在するのか、探っていきたいと思います。
中央連打からのトランジション攻撃
サッカーはピッチの至るところで時間とスペースの奪い合いが行われるスポーツです。例えばリバプールは速さによるプレッシングで相手のボールを保持する時間を削ったり、マンチェスター・シティはポジショナルプレーを基盤とする位置的優位性によって、相手のプレッシングを回避したりといたちごっこは延々と続いています。スペイン代表はボールの循環によって相手を動かすことで時間とスペースを手に入れます。時間とスペースを得る手段は多々ありますが、今季のバイエルンは最小の時間とスペースでプレーすることを試みてきました。
衝撃的だった開幕戦のバイエルンの配置は[4-2-2-2]と表現すべきでしょう。かつてのRBライプツィヒやザルツブルクがストーミングを代名詞として一世を風靡した[4-2-2-2]と基本的な考えは変わりません。前線の4枚が中央の3レーンを共有し、セントラルハーフ(CH)コンビがトランジションに備えることで何度も何度も相手のゴールに迫ることを特徴としています。サッカーがロースコアのスポーツであるならば、繰り返し相手のゴールに殺到する、相手ゴール前でのプレー機会を増やす思想は論理的なものと評しても問題はないでしょう。
前線の4枚の配置に明確なトリガーは存在していません。配置の基準に相手の配置はあまり関係ないように見えます。相手よりも自分たちに矢印を向けているような印象が今季のバイエルンからは総じて感じるところです。例えば、相手が3バックならばこの配置で、といった決まりは存在しているようには見えませんでした。パターンとしては、2ウイング(WG)+2オフェンシブハーフ(OH)、CF+2WG+OH、2FW+2OHなどを行ったり来たりします。大切なことは、各々の役割をそれぞれの選手が理解しながらプレーすることでしょうか。ここでの役割には出し手からボールを受けるための立ち位置と、味方をフリーにするための立ち位置を取ることの2つが存在します。
ポジショナルプレーの優位性である数的優位というよりは、密集の中であっても存在する位置的優位と狭いスペースでもプレー可能な質的優位、役割の交換を可能とする個々の柔軟性と調整力を軸にしている印象を受けました。もちろん、狭いエリアでのプレーは難易度が高く攻撃機会が増えれば、それだけボールを失う回数も増えます。しかし、ヨシュア・キミッヒを中心とするCHコンビがトランジションを制し、カウンタープレッシングからのカウンター移行によってゴールに迫る場面も今季のバイエルンを象徴とする場面です。
[4-2-2-2]から大外レーンを意識する[2-3-5]へ
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。