先のU-20女子W杯では日本を破って優勝、女子EURO2022では準々決勝止まりも優勝したイングランド相手に惜敗、A代表のエース、アレシア・プテジャスはバロンドールやFIFAザ・ベストに続きUEFAの欧州最優秀選手賞を受賞したばかりと、今や男子以上に優秀なスペインの女子サッカー界で反乱が起きた。
先月末、女子A代表のキャプテンたちがホルヘ・ビルダ監督の更迭をルイス・ルビアレス連盟会長に直訴したのだ。
訴えは退けられ、チームは快進撃
理由は、練習の負荷のかけ方を知らない、戦術的な解法を持たない、招集メンバーや記者会見の人選に偏りがある、というもの。いずれも監督の手腕に直接関係しているものだったが、直訴を受けて連盟は「監督の任免権は連盟のものであり、選手にはない」と訴えを退け、ビルダ監督には2024年までの契約が残っていることを確認した。
連盟の言うことは理屈の上ではまったく正しいが、選手が不満を抱えたままでチームが好パフォーマンスを発揮するのは難しいのも事実である。だが、それでも勝つのが現代表だ。
9月6日に終わった女子W杯予選では、監督が「対話で解決できないことはない」「“魔女狩り”(=反乱者への弾圧)なんて一切ない」と騒動の鎮静化を図る一方で、チームはグループ1位で通過。8戦全勝、53得点無失点という圧倒的な強さだった。
意識の差がもたらすものか
直訴事件に対して興味深い反応があった。これは女子だから起き得るもの、というものだ。
確かに、男子でも報道を通して監督への不満が報じられることはあっても、直訴したという話は聞いたことがない。
1年前にはバルセロナの女子チームで選手たちがジョアン・ラポルタ会長に監督解任を訴え、この時は監督が辞任している。
異議を訴え続け、様々な権利を勝ち取らなければプロ化さえされなかった女子サッカー界で、選手たちの意識が男子よりも高い、というのはありそうなことだ。
男女差別や格差について、男子は「他人事だから関心がない」で済まされるかもしれないが、自らの問題である女子はそれでは済まない。発言を聞いていても女子の方がおおむね大人であり、男子は子供である。
加えて、男子の監督に異議を唱えるのはメディアやファンだが、女子の場合はそこまで関心が高まっておらず、当事者が声を挙げるしかなかった、という面もあるだろう。
ルイス・エンリケにさっぱり呼ばれないイアゴ・アスパスは黙々とゴールを積み上げ、現在リーグ得点王だ。やはりさっぱりお呼びがかからないイニャキ・ウィリアムスは黙ってガーナ代表に鞍替えした。
対して、女子の中には招集外の不満や疑問をはっきり口にする選手もいる。例えば、ダマリス・エグロラは「代表監督であるからといって、ホルヘ・ビルダには嘘をつく権利はない。もうスペインを待てない」と言ってからオランダ女子代表への参戦を発表した。
Photo: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。