昨季初挑戦のプレミアリーグで大ブレイクを遂げたマルク・ククレジャ。今夏の移籍市場における人気銘柄の一人として注目を集めたスペイン代表DFは、移籍先として有力視されていたマンチェスター・シティのオファーがブライトンの要求額に満たず拒否される中、すかさず6200万ポンドで獲得に乗り出したチェルシーへの加入が8月5日に決定した。SBとしてはプレミア史上最高額の移籍金が支払われた新戦力の開幕4試合でのパフォーマンスを、チェルシーサポーターでもある山中忍氏が評価する。
8月27日のプレミアリーグ4節レスター戦(2-1)で、チェルシーが今季2つ目の白星を手にした。前節リーズ戦は惨敗(0-3)。ロシアのウクライナ侵攻に端を発する今夏のオーナー交代で揺れたチームにとっては、その翌週に行われた今季第1回の“メンタルテスト”に相当するアウェイゲームだった。
合格に導いたマン・オブ・ザ・マッチを選べば、移籍後の初ゴールを含む2得点を記録したラヒーム・スターリングになる。勝ち点3をもたらすことになった63分の2ゴール目をアシストしたリース・ジェイムズは、開幕4戦でのチーム内ベストプレーヤーといったところ。この日も新FWとの呼吸の良さが垣間見られた。
だが、ジェイムズとは逆の左サイドで、そろってサイドバックとして先発した試合をウイングバックとして終えたマルク・ククレジャにも同じことが言える。47分の先制点アシストは アウトサイドでもらったボールをエリア手前中央にいたスターリングの足下に届けたこの新DF。その4分後にも、速攻カウンターで左インサイドを上がってのパスで、惜しくもポストに跳ね返されたスターリングのシュートを演出している。
ククレジャは、チェルシーでのデビューを果たした開幕節エバートン戦(1-0)での途中出場7分後から、シュートはブロックされたものの前マンチェスター・シティFWにチャンスを提供していた。移籍先でのアシスト自体は、2節トッテナム戦(2-2)で新 CBカリドゥ・クリバリの先制ボレーを呼んだCKで、1つ目を記録済みだった。
このように攻撃でも任務を遂行するククレジャは、育成年代のうち6年間をバルセロナで過ごしている現代的な左SBだ。前提として確かな足下の技術を持ち、受け身ではなく攻めるために能動的に守り、チームが相手コートを主戦場として試合を展開する手段としてショートパスを好むという選手像は、ペップ・グアルディオラ率いるシティがブライトンからの獲得を諦めた事実が不思議に思える「マシア卒業生」そのものだ。
昨季チェルシーに苦戦を強いた集中力と利便性
無論、SBのプレミア史上最高額となる移籍金6200万ポンド(100億円強)で競り落としたチェルシーでは、監督としての志向にポゼッション、インテンシティといった共通項を持つトーマス・トゥヘル向きの即戦力ということになる。買われた当人は、8月17日に行われたチェルシーでのお披露目会見で「もうビッグな監督だったし、アカデミー時代に会いに来てくれた時にはびっくり」と回想していたが、現チェルシー指揮官が抱いていた興味は、昨季2度のプレミア対決で強い獲得意欲へと変わっていたことだろう。トゥヘル体制下で初のフルシーズン、チェルシーはククレジャがプレミア1年目にしてファンと選手の双方からチーム年間最優秀選手に選ばれたブライトンに勝てなかった。いずれも引き分け(1-1)だった2試合でも、初めてプレミアのDFとして現れた昨年12月のホームゲームでの印象は強烈だったはずだ。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。