ディナモが3年ぶりCL本戦出場も…UEFA係数に揺れる中堅国、クロアチアの悲喜こもごも
8月24日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)プレーオフ第2戦、第1戦で背負った1点ビハインドをひっくり返すと、一時は2戦合計2-2に並ばれるも延長戦での2発でボデ・グリムトを振り切り、ホームでCL本戦出場を決めたディナモ・ザグレブ。
死闘の後にはゴール裏を埋め尽くしたサポーターの大合唱に合わせて選手が飛び跳ね、19-20シーズン以来となる欧州最高峰の舞台への切符獲得を祝福していたクロアチアの名門だが、国内ではUEFAランキングを考慮してむしろ敗退を望む声が挙がっていたという。その背景にあるUEFA係数の計算方法とクロアチア勢の苦戦について、ディナモを中心に東欧サッカーを追い続けるジャーナリストの長束恭行氏に解説してもらった。
今季UEFA係数を最も稼いでいる国はどこ?
「何を隠そう、ボクは『欧州チャンピオンズリーグこそが世界最高峰のサッカーイベントだ』と地球上で最も口にしてきた自負がある。エンタメ性はエベレスト級だ。でも、プレーオフでのディナモ・ザグレブの勝利を祈れない。むしろ、こう思ってしまう。負けろ、ディナモ。未来のために」
ライターならではの脚色を多少入れているが、「ディナモ対ボデ・グリムト」の試合を前にして、上のような自虐的意見がクロアチア国内で真剣に語られていた。やられるのを承知でチャンピオンズリーグ(CL)に進むべきか、大手を振ってヨーロッパリーグ(EL)に進むべきか。クロアチアのような中堅国には究極の選択だ。「CLの醍醐味はメガクラブ同士が潰し合う決勝トーナメント」「ヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)は意味不明な大会」なんて思っている貴方、あるいは数字がてんで嫌いな貴方にはお勧めできない、UEFAランキングを巡るクロアチアの「悲喜こもごも」が今回のテーマだ。
CL、EL、ECLの各国出場枠を決める際の物差しが1979年に導入された「UEFA係数」であり、その数字をもとにしてランキングが作られる。ランキングには①ナショナルチームランキング、②カントリーランキング、③クラブランキングの3種類があるが、今回の記事で使用する「UEFAランキング」はすべて「②カントリーランキング」を指していることを念頭に読み進めてほしい。
UEFAランキングは過去5シーズン(※1)のUEFA係数の積算を国順に並べたものだが、そのUEFA係数のベースになるのが「ポイント」だ。クラブがCL、EL、ECLで1試合勝つごとに2ポイント、引き分けるごとに1ポイントが与えられ(予選ラウンドではどちらも1/2換算)、グループステージ(GS)進出や各ラウンド進出で与えられるボーナスポイントは大会ごとに細かく設定されている(詳細はこちら)。ただし、CLではボーナスを含めてGS以降に最大38ポイント稼げるのに対し、ELでは34ポイント、ECLでは30ポイントなので、そこまで大きな差はない。大国だろうとECLをぞんざいに扱えるわけでなく、今シーズンのECLで一つもGSに到達できなかった7位のポルトガルは、未来のUEFAランキング降下を免れないだろう。
(※1…出場枠を決めるUEFAランキングは2シーズン前までのものが採用され、例えば今シーズンの各国出場枠を決めた際のランキングは「16-17シーズン」から「20-21シーズン」までのUEFA係数の積算に基づいている)
ここで鍵となるのは、UEFA係数は「1カ国のクラブが稼いだポイントの総計÷参加したクラブ数」という頭割りで算出されることだ。試しに21-22シーズンのイングランド勢で計算してみよう。ちなみにFAカップ優勝枠でEL参戦のレスター・シティはGS3位に終わり、ECLの決勝トーナメントへと回っている。
[丸数字は20-21シーズンのプレミアリーグ順位]
①マンチェスター・シティ
27ポイント(CL 7勝2分3敗=16ポイント、ボーナス=11ポイント)
②マンチェスター・ユナイテッド
18ポイント(CL 3勝3分2敗=9ポイント、ボーナス=9ポイント)
③リバプール
33ポイント(CL 10勝1分2敗=21ポイント、ボーナス=12ポイント)
④チェルシー
25ポイント(CL 7勝1分2敗=15ポイント、ボーナス=10ポイント)
⑤レスター・シティ(FAカップ優勝枠)
17ポイント(EL→ECL 6勝4分4敗=16ポイント、ボーナス=1ポイント)
⑥ウェストハム
21ポイント(EL 6勝2分4敗=14ポイント、ボーナス=7ポイント)
⑦トッテナム・ホットスパー
6ポイント(ECL 予選1勝1敗=1ポイント、2勝1分3敗=5ポイント)
以上の結果から「総計147ポイント÷7クラブ」という数式が生まれ、21-22シーズンのUEFA係数は「21.000」。17-18シーズンから21-22シーズンまでの5シーズンの総計は「106.641」で、来季の出場枠を決めるUEFAランキングではイングランドが文句なしの1位だ。
ここで学生クイズ王だった私からとっておきの難問を出そう。スクロールの手を止めて。
問題:「8月25日に欧州カップの予選日程すべてが終了しましたが、その時点で22-23シーズンのUEFA係数を最も稼いだ国はどこ?」
答えと解説は下のTwitter投稿のあとに記してある。あなたは見事、正解できただろうか?……
Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。