その判定1つで試合の流れを大きく左右することもあり、議論の的になりやすいオフサイド。特にオフサイドポジションに位置している攻撃側の競技者へパスが出ても、そのボールに守備側の競技者が触れていた場合、「意図的なプレー」とみなされればオンサイドとして扱われるため、言葉の解釈をめぐって論争が巻き起こっていた。そうした背景から今夏、国際サッカー評議会が明文化したガイドラインを、競技規則に明るいSUSSU氏が解説する。
「意図的なプレー」の新たな定義
2022年7月28日、サッカーの競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)からとあるガイドラインが発表された。競技規則11条に定めるオフサイドについて、これまで度々議論を引き起こしてきた「意図的なプレー(Deliberate Play)」の定義が明文化されたのである。 2020-21UEFAネーションズリーグ決勝のフランス代表FWキリアン・ムバッペによる得点をめぐり話題となった「意図的なプレー」であるが、今回のガイドライン発表が従来のルールとの変化点や今後に与える影響について考察することとしたい。
なお情報は本稿作成時点(2022年8月22日)のものに基づき、この時点では日本サッカー協会(JFA)からガイドラインに対する補足等が公表されていない点をご留意いただきたい。
まずは競技規則11条と今回のガイドラインの関わりについて解説する。
拙稿『「意図的なプレー」「ベンゲル・ルール」…規則改正史とテクノロジーから考えるオフサイドの未来』にて触れたように、この「意図的なプレー」ルールは、一見するとオフサイドながら例外的に当てはまらない場合の条件として位置づけられる。例えオフサイドポジションにいる選手がパスを受ける場合でも、受ける前に相手の守備側競技者による意図的なプレーを経たボールであれば、オフサイドの反則とはみなさないと明記したものだ。先のネーションズリーグ決勝のケースは、オフサイドポジションにいたムバッペがボールに触れる前にインターセプトを試みたスペイン代表DFエリック・ガルシアのプレーが意図的とみなされたことでオフサイドの反則が適用されなかった。
この度公表されたガイドラインの主旨は、競技規則上明記されずにいた「意図的なプレー」の定義を明確にすることにある。競技規則に変更が加わる場合、年次総会を経て1年に1回の更新に合わせるケースが通例だが、今回は未定義のキーワードに解釈を補足する形で追加された点において異例の対応とも言えよう。推測の域を出ないが、前述のムバッペのケースの直後にUEFAチーフレフェリングオフィサーのロベルト・ロゼッティ氏が「(判定は正しいが)フットボールの精神に反する」と評したことからも、できる限り早く状況を是正すべきとする意見が評議会の大勢を占めたのかもしれない。
IFABの事例から検証する5つの判断基準
このガイドラインでは、意図的なプレーに当てはまる守備側競技者のプレーを3つ定義し、念のために判断基準に含まない状態を補足した上で、さらにより具体的な目安として5つの判断基準を設けている。ガイドライン追加に対する理解を深める上で重要なのは、最後の5つの判断基準である。
注意しておきたいのは、これらの5つの基準は決定的な得点機会の阻止(いわゆるDOGSO)の成立要件と異なり、AND条件(すべての条件を満たすことで成立)ともOR条件(どれか1つでも満たすことで成立)とも明記されていない点だ。何を重視して判断すれば良いのか迷うところであるが、IFABが公式ウェブサイト上でいくつか事例を公表しているので、まずはこれらの事象からガイドラインの意図するところを読み解いてみよう。……
Profile
SUSSU
1988年生まれ。横浜出身。ICTコンサルタントとして働く傍らサッカーを中心にスポーツに関わる活動を展開(アマチュアチームのスタッフ・指導者、スポーツにおけるテクノロジー活用をテーマにした授業講師等)。現在は兼業として教育系一般社団法人の監事も務める。JFAサッカー審判資格保有(3級)。