20-21シーズン途中でシティ・フットボール・グループに所属するベルギー2部のロンメルに完全移籍した斉藤光毅は、今シーズンからオランダ1部のスパルタに期限付き移籍し、新たな環境での挑戦を始めた。第2節のAZ戦を終えた段階ではまだ出場機会を得ておらず、「もがき続けている」。試合後、中田徹氏が本人を直撃した。
1888年創設のスパルタは、プロの中ではオランダ最古の名門サッカークラブだ(アマチュア最古はコーニンクルクHFCの1879年)。かつて、アヤックスは赤と白の細いストライプのユニホームを着ていたが、「スパルタと同じデザインだ」というクレームを受けた。こうして、1900年発足の後発クラブは現在の白地に、太い赤の一本ラインのユニホームへの変更を余儀なくされたという。
OBには錚々たる名前が連なる。8月14日、AZ戦を観戦するためヘット・カステール(お城の意。スパルタのホームスタジアム)を訪れたルイ・ファン・ハール(現オランダ代表監督)はクラブ愛を隠すことなく『スパルタ・マルス(マーチ調の有名なクラブ応援歌)』をファンとともに歌ってキックオフのホイッスルの音を待った。
キックオフのセットプレー化がもたらした「8秒ゴール」
試合が始まって間もなく、134年のクラブ史に新たな歴史が刻まれることになった。スパルタボールで始まったこの試合、瞬く間にスパルタはAZゴール目前まで攻め込んで、たった8秒で電光石火のゴールを決めたのだ。これは1982年、NACのコース・ワスランダーがPECズウォレ戦でゴールを決めた時の8秒に並ぶ、オランダリーグ最速ゴール記録だった。
殊勲の先制ゴールを決めたファン・クローイが、歓喜のランニングをした先にはコーチのブハリがいた。ブハリは、このキックオフからの攻撃をデザインしたコーチで、スパルタはAZ戦の前日にこの秘術を練っていた。
もっとも、このキックオフをセットプレーと見なした攻撃は、スパルタのオリジナルではなかった。ブハリコーチは昨季のチャンピオンシップ、ボーンマスがフルアムを相手に後半のキックオフで使った攻撃にヒントを得て、モーリス・スタイン監督の賛同を得た上で、今回の準備をしてきた。
その後は自力に勝るAZにイニシアチブを握られ、57分には1-2と逆転を許したものの、その2分後にスパルタはAZの守備の弱点を巧みに突き、右SBアベル→MFデ・グズマン→FWファン・クローイとつないで同点弾を挙げてホームのサポーターを熱狂させた。最終的にスパルタは2-3の惜敗を喫し、開幕2節目で1分1敗とまだ勝ち星はないものの「昨季(14位)のように際どく1部に残留することはないだろう」と、オランダ国内では好意的に評価されている。
攻撃サッカーを宣言。選手層が厚くなったスパルタ
チームに明るい風を吹き込んだのは、今年5月1日からスパルタの指揮を執り始めたスタイン監督だ。前監督のヘンク・フレーザー(現ユトレヒト監督)は守備組織からチーム作りをするタイプだったが、更迭時は18チーム中、最下位でチームは大混乱していた。スタインは「“(フレーザー前監督の)降格しないための守備的サッカー”ではなく、“残留するための攻撃サッカー”をする」と宣言。スタインが指揮を執り始めたスパルタは第31節以降3勝1分と見事に蘇り、14位でフィニッシュした。
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。