今夏もロレンツォ・インシーニェ、ジョルジョ・キエッリーニ、ガレス・ベイルら欧州で確かな実績を残したベテラン選手が次々と活躍の場を移しているMLSに2022年8月4日、バルセロナからまだ23歳の若手が参戦した。13歳でマシアの門を叩くと、19歳でトップチームデビューを飾り通算56試合に出場。昨季は憧れのシャビ・エルナンデスが身に纏った6番を背負っていたリキ・プッチだ。
その小気味良いボールタッチと類まれなパスセンスに魅了されたクレ(バルセロナファンの愛称)からも期待を寄せられ、成長を待たれていた大器はなぜ未完のまま戦力外でLAギャラクシーへと去ることになったのか?長年バルサを見守り続けるぶんた氏に考察してもらった。
リキ・プッチの前髪にボリュームと高さのあるオールバックスタイルを「ポンパドール」と言う。今や欧州サッカー界でプレーする選手たちの8、9割のヘアースタイルは、短く刈り上げられたバーバースタイルに定着した。それを欧州で普及させ、世界に広めたオランダの伝説的バーバーショップ「Schorem」(シュコーラム)のオーナーであるターバス氏はポンパドールスタイルをこう評している。
「男にしか理解し得ない魅力がある」
映画『エルヴィス』でも、ちょっと前髪を崩したポンパドールで自己表現されたエルヴィス・プレスリーのワルとセクシーさは、時空を超えた濃ゆい漢(オトコ)のグルーブがあった。
しかし、リスのような齧歯類(げっしるい)のかわいらしさを醸し出すリキ・プッチとワイルドなポンパドールスタイルはどうにも合わず、ダサいグルーブをビンビンに出している。小柄で愛嬌のある顔立ちに、男臭い髪型が馴染まない矛盾したアンバランスさ。たかがヘアースタイルだが、バルサで見せたリキ・プッチのプレーとも一致していた。
バルサの美しい旋律を狂わせた悪癖
リキ・プッチにはクレにしか理解し得ない魅力がある。
華奢だが俊敏で、大男の隙間をヒラリと交わす“柔よく剛を制す”のボディコントロールは一級品。パス技術もこれまた一級品。振りがシャープでインパクトの強いキックで、敵陣を切り裂く。まさにクレの大好物な養分だけで仕上がったカンテラーノの傑作。そして純粋培養ゆえのバルサでしかプレーできないであろう不器用さもまた、クレの偏愛対象であった。
しかし、「結果がすべてのリーグ戦で信頼できない選手を起用することなど、できるはずもない」という監督なら当たり前の真理を前に、リキ・プッチが信用を勝ち取ることは指揮官が3回交代したトップチーム時代の最後までなかった。背番号6を受け継いだ直属の大先輩、シャビ・エルナンデスが上司であってもそれは変わらず、裏口から失意とともにアメリカへと飛び立っている。
169cm、56kgという小柄で華奢ゆえにフィジカル的にダメだったイメージが先行されがちだが、実際にはインテリオール(インサイドハーフ)としてのプレービジョンに問題があったのではないか。
リキ・プッチ本人だけをギューっとフォーカスすると、チームの中でも1、2位を争う技術の持ち主であることがわかるが、引きのアングルで俯瞰して試合を見ると、ビックリするくらい存在感が希薄になる。相互作用の連結の肝であるインテリオールとして味方との連鎖が薄いのが、この現象の要因なのだろう。
昨シーズン、スタメンで出場した2試合、19節マジョルカ戦、37節ヘタフェ戦では、最初の15分はボールから離れながら、守備ライン裏の深い位置で体の向きを調節して、常にパスラインを作り出すバルサのインテリオールとしてのタスクをしっかりこなしていた。
しかし15分を過ぎて相手の陣形、連携、戦い方を把握すると、すぐに守備ラインの手前まで戻りボールに近寄るという悪癖が出始めた。……
Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」