やはり「権力は腐敗する」なのか? 私腹を肥やし、汚職で刑務所入りした前会長とは180度真逆、というのがルイス・ルビアレススペインサッカー連盟(RFEF)会長のイメージだった。労働組合出身(選手会の前会長)で、選手時代は給与未払いに抗議するストを率いたこともある。だが、就任5年目になって数々のスキャンダルが噴出した。
※『フットボリスタ第91号』より掲載
ルイス・ルビアレス、スペインサッカー連盟会長を今年になって次々とスキャンダルが襲っている。前会長が汚職まみれで刑務所に送られるという不祥事の後に選ばれたルビアレスは、清廉潔白とのイメージだっただけに意外だった。
もっとも、「スキャンダル」と言っても違法行為かどうかは微妙なところ。おそらく立件不可能か、違法ではないという結論になるのだろう。その点で、犯罪者となって終わった前会長のスキャンダルとはレベルがまったく異なる。ただ、いずれにしても違法でないからOKなのか、モラル的にはどうなのか、という問題は確実に残る。こんな人物が会長として相応しいのか、という議論だ。
労働組合出身で、左翼畑の出だからといって清廉潔白と早合点してしまうのは、同じ元労働組合執行部にいた経験がある私の甘さなのだろう。権力には誘惑が多く、いつしかモラルのガードが下がってしまってもそれはそれ、「人間だもの」で済んでしまうことなのかもしれない。音声とビデオの存在が反響を大きくしたルビアレスを取り巻く「疑惑」は表の通り(疑惑であって確定ではない、念のため)。
このうち、❶と❹に関しては音源や映像が暴露されており事実が確認されている。このスキャンダルが一大スキャンダルとして報じられたのは、音源や映像があって騒ぎやすいというのがある。スポーツ界のニュースにとどまらず、ゴシップ化したのは次のような生々しい会話がお茶の間に流れたおかげである。
ピケ「(連盟は)6(600万ユーロ)は取れるぞ。で、サウジアラビアをもっと締め上げたらもっといけるかも。レアル・マドリーが参加しないと脅したら……。スペインでやったら3(300万)も取れない。ルビ、金の問題だぞ」
ルビアレス「ジェリ、おめでとう。もう12時が過ぎた。サウジアラビアとの契約が成立したということだ。今回はいろいろ世話になった。これからもよろしく」(※野卑な言葉は、翻訳では上品にしています)
スクープを連発している『エル・コンフィデンシャル』紙は、情報源としてRFEF内の内通者をつかまえているようだ。ルビアレスやRFEFが反論すると、証拠の音声やビデオを出すというふうにキャッチボールをする演出で反響を大きくすることに成功している。情報を小出しにしており、毎朝同紙を開くたびにドキドキする、という状態が続きそうだ。
いち選手が大会作りに介入する異常
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。