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【『アドレナリン』厳選エピソード①】イブラがPSGの新SDに立候補?「俺がチームをまとめてあげますよ」

2022.08.05

7月29日に刊行した『アドレナリン ズラタン・イブラヒモビッチ自伝 40歳の俺が語る、もう一つの物語』は、ベストセラー『I AM ZLATAN』から10年の時を経て世に出されたイブラヒモビッチ2冊目の自伝だ。 イブラ節全開の本書の中から訳者である沖山ナオミさんが厳選エピソードをピックアップ。

第1回は、今や世界有数のスター集団となったパリSGとプロジェクトの初期段階を牽引したイブラとの興味深い関係について紹介する。

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 “俺がキリアン・エムバペにアドバイスしたことは「出ていくことを考えろ」” “俺がナーセル会長にアドバイスしたことは「出ていかせないことを考えろ」”(『アドレナリン』P156より)

 パリ・サンジェルマンに所属する世界屈指のFWエムバペに向かって、さらにはカタール王族が所有する同クラブ会長ナーセル・アル・ケライフィに向かって、こんな偉そうなアドバイスをしれっとしてしまう男、ズラタン・イブラヒモビッチ。さすが己を神と称する男はレベルが違う。国家マターとまでいわれたエムバペ案件にイブラ発言も影響していたのだろうか。

 ここではイブラとエムバペ、またナーセル会長が絡むエピソードをご紹介し、イブラ自伝『アドレナリン』視点でエムバペがPSGに残留した理由を探ってみる。(注:筆者の妄想含む)

「レアルに行くのがいいんじゃないか」

 今年5月21日、レアル・マドリーへの移籍がほぼ確定していたエムバペが、ドタキャンしてPSGへの残留を決めて世界中を驚かせたのは記憶に新しい。エムバペにとってレアルは子供の頃からの憧れのチームであり、本人は加入の意思をずっと公言していた。レアルは1億3000万ユーロ(約176億円)の契約金、2600万ユーロ(約35億円)の年俸をはじめとする破格の条件を提示し、両者はほぼ合意に至り、あとは発表を待つばかりという状態だった。

 それが直前になっての大どんでん返し。一体何があったのだろう。様々な憶測が飛んだが、まず、PSGがレアルの倍額近い年俸を提示したという金銭上の理由が挙げられた。だが、エムバペが金だけで動いたとは到底思えない。ではなぜ? エムバペ案件は今年カタールで開催されるW杯を見据えてのマクロン大統領やカタール首長タミームが絡む国家マターだったともささやかれているし、さらにはPSGがエムバペに人事への発言権まで与えたからとも言われている。本人は「PSGで成長し続けられると確信している」と優等生的なコメントを残しているが、真相はいまだはっきりしないままだ。

 「レアルに行くのがいいんじゃないか?」

 そもそもエムバペとイブラはPSG在籍期間がずれているので、チームメイトになったことはない。2人は2021年7月に行われたマルコ・ベッラッティの結婚式で知り合ったそうだ。サッカー界の大先輩であり、OB選手としてPSGの内情に詳しいイブラに、エムバペは助言を求めている。イブラは「レアルに行くのがいいんじゃないか?」と答え、その理由として、「レアルにはPSGとは違う哲学と行動規範があるから」と説いている。

 イブラは以前からPSGの状況に問題を感じていたのだ。自伝では「たくさんのスター選手がいるが、犠牲的精神に欠けているんだよ。必要ないからな。能力の半分しか使わなくても勝てるからだ」と意見している。実際、PSGはフランス国内では常勝チームだが、異次元スター選手揃いであるにもかかわらず、欧州の舞台ではCL優勝に手が届かない。イブラはその理由がクラブの“ゆるさ”にあると考えていたのだ。

 「もっと厳しさがあれば、全員が走るだろう。練習に遅刻してくる選手もいなくなるはずだ。個人が好き放題やることも許されなくなる」と。イブラはエムバペの能力を高く評価しているが、彼がPSGのぬるま湯のような環境にいる限り成長は期待できないと考え、「このクラブを出て、より規律の厳しいレアルに移籍するほうがよい」とアドバイスしたわけだ。

「パリには適当な人物がいない」――ふさわしいのは「俺」

 イブラがエムバペにレアルへの移籍を勧めたと知ったナーセル会長は、憤慨して電話をかけてきた。「事実か?」と。イブラは「それは事実です」と答え、「パリSGは規律が甘いですからね。エムバペは成長して次のステップに進む必要がある。だが、パリには適当な人物がいないから、この環境で彼が成長するのは難しいでしょう」と続けた。……

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キリアン・ムバッペナセル・アル・ケライフィパリ・サンジェルマン

Profile

沖山 ナオミ

横浜生まれ。慶應義塾大学文学部卒。翻訳者。ライター。リサーチャー。当初、IT、通信関連の雑誌記事、ウェブサイト等の英日翻訳を行っていたが、イタリア在住時ASローマの魅力に取り憑かれ、帰国後はサッカー関連の仕事にシフトした。サッカーテレビ番組および実況中継のリサーチャー、雑誌記事の翻訳等を行いながら、サッカー書籍の翻訳を始めた。主な訳書に、『キャプテン魂 トッティ自伝』(2020年)、『我思う、ゆえに我蹴る アンドレア・ピルロ自伝』(2014年)、『I AM ZLATAN ズラタン・イブラヒモビッチ自伝』(2012年)、『サッカーが消える日』(2011年)などがある(いずれも東邦出版)。

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