ダニエウ・アウベス、W杯出場を目指し新天地メキシコで再スタート
ブラジル代表右SBのダニエウ・アウベスが、7月23日にメキシコのプーマスと1年間の契約を交わし、その4日後に早速、新天地デビューを飾った。メキシコ1部リーグ第5節マサトラン戦。試合は1-1の引き分けに終わったものの、ダニエウはスタメンとして90分間プレーし、後半終了間際にはCKでチームのゴールをアシストするなど上々のスタートを切った。
「彼がW杯にいないとしたら…」
ダニエウがバルセロナとの契約更新がなくなったことを発表したのは6月15日のこと。自身の運営するSNSに「今、別れの時が来た。 あのクラブ、あのチームカラー、そしてあのホームスタジアムに捧げた8年間だった」と投稿したのだ。
2003年から17年間に渡ったヨーロッパでのプレーを終え、サンパウロFCでプレーしていた彼が昨年11月にバルセロナに復帰したのは、ヨーロッパの高いレベルでプレーし、2022年ワールドカップに万全のコンディションで臨むのが目的だった。そのため、今回も少なくとも半年間の契約更新を望んでいると伝えられていた。
ブラジルのフル代表では今なお中軸だ。また、昨年の東京五輪では、猛暑の日本でU-24世代に混じってピッチの内外で重要な役割を果たし、金メダルの原動力の1人にもなった。そのため「クラブ無所属の選手がW杯を戦えるのか?」と不安視する報道はあったものの、彼自身はブラジル代表として出場した6月の韓国戦と日本戦の後、ヨーロッパのクラブに所属する他の選手と同様、シーズンオフを楽しみながらハードにフィジカルトレーニングを続けていた。
関係者も落ち着いたものだった。ブラジル代表のチッチ監督はダニエウの今後について聞かれ、笑い飛ばすように語っていた。
「ダニエウの並外れた技術は印象的だよ。ただ、彼が完璧なフォームであるためには、フィジカル面に注意しないといけない。彼に冗談を言ったんだよ。彼がW杯にいないとしたら、彼のコンディションが良くないか、高いレベルのリーグを戦っていないか、という場合だけだから、(判断の)責任は(フィジカルコーチの)ファビオにある、私の責任じゃないってね(笑)。技術的なクオリティは高い。リーダーとしてのスピリットもある。多くのタイトルも獲っている。あとは彼がベストなパフォーマンスのできる役割でプレーすることだ」
2002年W杯優勝チームのキャプテン、そしてダニエウと同じ右SBだったカフーも信頼感を語っていた。
「決めるのはチッチだけど、試合に出ていない選手が招集されるとは考えにくい。でも、彼はすぐにも所属先が決まり、練習に戻り、彼が一番良く知っていることであるサッカーのプレーに戻るはずだ。彼はブラジル代表を構成する上で非常に重要な一員なんだから、できる限り早くプレーに戻れることを願っている」
メキシコのスタイルを称賛
ヨーロッパやアメリカ、そしてブラジル国内と数々のクラブからのオファーや打診が報道される中、彼の行き先はメキシコだった。デビュー戦を前に、ダニエウはこう語った。
「今、僕はここにいる。ここでプレーするということを最大限に生かすつもりだ。僕の人生での、他のすべての歩みにおいてそうだったように、ここでも勝者として歩んでいけることを願っている」
そして、プロ人生における5つ目の国となるメキシコのプレースタイルを称賛している。
「僕はいつもメキシコのサッカーに親しみを持っていた。パス回しを多用し、繋ぐサッカーだ。いつの時代にも、非常にクオリティの高い選手たちがいた。これまでプレーした国で学んできたように、今回も、僕の潜在意識の中にあったあのサッカーの特徴を学ぶ機会だと思っている」
そんな彼に、プーマスのアンドレス・リジーニ監督は「彼は長きに渡る経験を生かして、ピッチの中で貢献するために来た。チームが得るものは多い。それに、彼は非常にシンプルで謙虚な人物なんだ」とコメントし、期待を寄せている。
クラブやチームメイト、サポーターの盛り上がりと同様、現地メディアも、ダニエウの存在によってメキシコリーグが世界の関心を集めることに期待している。
懐疑論もある中、デビュー戦で活躍
一方で、『ESPNメキシコ』のコメンテーター、アルバロ・モラレスは「ダニエウ・アウベスがレジェンドであることは間違いないが」と前置きしながら、39歳という年齢から「2240mという標高の高さ、日によっては29度から35度まで上昇する気温、そして大気汚染。その中でプレーする彼を見てみたいものだ」と、メキシコシティの環境を挙げつつ、この移籍を決めた彼に疑問を投げかけている。
それでも、ホームゲームだったデビュー戦は、ウォーミングアップから観客が歓声を上げる中、MFとして攻撃的にプレーし、セットプレーも蹴った。試合後には、73回ボールに触り、パスの成功率は85%、3回フィニッシュに持ち込み、5回のボール奪取に成功、というデータも発表された。この試合の引き分けにより、プーマスはリーグ全18チーム中8位から7位に順位を上げた。
2010年、2014年と連続したW杯出場を、2018年は大会1カ月前の膝のケガで逃した。自身3度目、そしておそらく最後となるだろう2022年大会まで、すでに4カ月を切っている。カタールに向けたラストスパートとなる、メキシコでの挑戦が始まった。
Photos: Lucas Figueiredo/CBF, Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。