アカデミー時代から9年半の時間をアルビレックス新潟で過ごしてきた本間至恩が、ベルギーの名門として知られるクラブ・ブルージュに完全移籍を果たした。「新潟のメッシ」「新潟の至宝」「新潟の孫」とも呼ばれ、多くのサポーターから愛されていた彼は、果たしてどういう人間性を有し、どういうキャリアを辿ってきたのか。本間を高校生の頃から見続けてきた野本桂子が、数々のエピソードとともに、新潟での日々を振り返る。
欧州移籍の実現。ついに夢の入り口に立つ
アルビレックス新潟の10番・MF本間至恩が、ベルギー1部のクラブ・ブルージュへ完全移籍した。7月8日、クラブ間で基本合意に達したことが発表され、現地に向けて9日に新潟を出発。メディカルチェックを経て正式契約に至ったことが、16日、新潟から発表された。
新天地となるクラブ・ブルージュは、リーグ3連覇中の強豪で、今季のCLにも本戦から出場する。幼い頃からCLやプレミアリーグを見て育ち、海外クラブでプレーすることを夢見ていた164cmのドリブラーは、ついに夢の入り口に立った。
最大の武器はドリブル。細かなタッチとフェイントで相手を鮮やかに抜き去るプレーは、メッシやネイマール、イニエスタを見て身につけたもの。主戦場としてきた左サイドハーフの位置からのカットインシュートも得意で、ボールを持てば、常にスタジアムが沸きあがる存在だった。
一方で、守備の献身性も兼ね備えている。本間と左サイドで縦関係を組んできた堀米悠斗は「あのサイズのドリブラーで、あれだけ守備ができる選手はなかなかいない。90分間サボらずに、強度高く、切り替え速くやり続けられる。奪って自分で攻撃を始めちゃうことも多かったし、特に攻守の切り替えの速さは武器になると思う」と言う。
行くと決めたら激しく奪いに行く。プロになってからの2020年、2021年にも退場になったことがあるほど。ここ3シーズン、アルビレックス新潟はポゼッションスタイルを構築中だが、「球際、切り替え、ハードワーク」はクラブの伝統。アカデミー時代から9年半を過ごした本間には、当たり前にやるべきこととして身についている。
9日の会見では、ドリブラーとして挑戦する決意を表明した。
「向こうには体の大きい選手たちがいっぱいいて、身体能力もすごいと思いますけど、自分には自分なりの武器がある。ドリブルは、向こうでもやっぱり大事にしていきたいところだなって思います。あとは、今までよりもたくさんの課題が見つかると思うので、それを一つずつ頑張って克服していけたらいいと思います」
小学生時代から新潟のサッカー少年の間では有名人!
本間は2000年8月9日、新潟県生まれ。サッカー好きの父の影響で、2歳頃からボールを蹴り始めた。部屋の中にマーカーを置き、8の字ドリブルを200往復練習するのが毎日の習慣。テレビで見るバルセロナのメッシやロナウジーニョ、イニエスタにあこがれ、海外でプレーすることが夢になった。
6歳からアルビレックス新潟のスクールに通い始め、小学生時代は南万代FCと朝日サッカー少年団で活躍。「至恩は昔からドリブルが得意でスーパーな選手だった」と話していたのは、スクール時代からお互いを知り、プロ入り同期でもある親友の藤田和輝(栃木SC)。今季、新潟に加入した高卒ルーキーの吉田陣平が「自分が小学3年生くらいから至恩くんのことは知っていて、憧れていた」と当時6年生だった本間を意識していたことは、新潟のサッカー少年の間では有名人だったことを物語っている。
新潟U-15では、中学1年の夏から10番を背負って3年生と一緒にプレー。自身が中学3年生の終わりには、新潟U-18の選手にまじってプリンスリーグ北信越に初出場。最終節・富山第一高校との試合でいきなりゴールを決めて、2-0での勝利に貢献した。この頃にはU-15日本代表にも招集されている。
2016年からは新潟U-18でプレー。この年は、クラブ史上初のプレミアリーグEASTが戦いの舞台。1年生ながら開幕戦から出場すると、第3節の横浜F・マリノスユース戦では、開始2分、自陣からのドリブルでチームの先制点をアシスト。新潟U-18をプレミア初勝利へと導く力となった。なお、この時の横浜FMユースの指揮官は、現在新潟を率いる松橋力蔵監督である。
高校2年になった2017年4月、当時J1だったトップチームの2種登録選手となり、5月末のルヴァンカップ第7節・ヴィッセル神戸戦で、クラブ史上最年少で公式戦デビュー。華麗なダブルタッチで相手DFの間を抜け、決定的なクロスを上げてサポーターを魅了した。
同年12月には、JFA・Jリーグ協働プログラムの一環として、岡本將成(現・鹿児島ユナイテッド)とともに10日間のドイツ研修へ参加した。シュツットガルトのU-19チームの練習に加わり、言葉は通じなかったが「いいプレーをしたら認めてくれて、パスも来るようになった」。評価されたことでU-23チームへの練習参加を勝ち取る経験もしている。
トップチーム昇格後の進化と成長
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。