チーム分析から紐解くポジショナルプレー#4
現代サッカーの主流な戦術的アプローチの1つとなっているポジショナルプレー。ただ、採用しているチームであっても実際にピッチ上で実践しているサッカーには差異があり、その実像を理解するのはそう簡単ではない。そんなポジショナルプレーの実像を、具体的なチームの分析を通してらいかーると氏が紐解いていく。第4回はスペイン代表。カタールW杯で日本代表と対戦する強豪のアプローチに迫る。
ポジショナルプレーって結局、なんですか?
久々にこの言葉を発信できた気がします。アヤックス、バルセロナ、本誌でチェルシーと人知れずひっそりと続いている、ポジショナルプレーをめぐる連載です。連載の趣旨は、実際のピッチで起こっている現象からポジショナルプレーを再定義しよう!となります。今回のテーマは「スペイン代表」です。スペイン代表のピッチでの振る舞いから、ポジショナルプレーについて考えていこうと思います。
ボール支配によるゲーム支配
ルイス・エンリケに率いられているスペイン代表ですが、ペップ・グアルディオラが掲げる「ボール支配によるゲーム支配」を愚直に実行している印象を受けます。グアルディオラが率いてきたチームと比べると、スペイン代表は「質的優位」を相手に押し付けるような、誰の目から見ても明らかな個性のある選手はいません。よって、ボール支配によるゲーム支配にグアルディオラたちよりも真摯に取り組んでいる印象があります。その結果を表すデータが高いボール保持率です。ボールを保持するチームでも保持率が70%を超えると逆に勝てない説もありますが、スペイン代表はまったく気にしていません。ボールを保持することで相手の攻撃機会を損失させること、延々と相手を押し込み続けることで、相手の忍耐と正面から向き合っている印象すら受けます。
ボール保持→ボール前進ではなく、ボール保持⇔ボール前進
ボールを保持しているチームには選択肢が与えられます。ボールを保持することを維持するのか、ボールを前進させるのか、そして、相手のゴールを目指すのか?です。ロースコアなゲームであるサッカーでは、相手のゴールを目指せばたいていの場合は相手ボールからのリスタートとなります。相手のゴールに近づけば近づくほどにその傾向は強くなります。攻撃の終着駅が相手ボールになる可能性が高ければ、ボール保持を重視するスペイン代表にとってあまり良い選択肢とは言えません。
スペイン代表はボールを前進させることに成功しても、平気でバックパスをします。下手をすると、相手を押し込んでいる状態からGKまでボールを戻すことも頻繁にあれば、ウナイ・シモンがボールを持って相手が迫ってくるまでじっとしていることも多々あります。ウナイ・シモンから放たれたボールが、またウナイ・シモンに戻ってくることも日常茶飯事です。そのくらいに、ボールを保持することにこだわりを見せています。普通に考えれば、ボールを保持し、前進させ、相手陣地に相手を押し込み、ゴールを目指すものですが、スペイン代表の場合はボールを保持し、前進させ、また保持しと、ボール保持と前進を行ったり来たりすることが特徴です。
ここからは、もう少し具体的にスペイン代表のサッカーについて見ていくとします。
11対10でサッカーをすること
ビルドアップは数的優位を前提としています。よって、相手陣地ではマンツーマン、自陣ではゾーンの意識を強めて守備を組織するチームが増えてきています。マンツーマンで守れば、ビルドアップの前提である数的優位を壊すことができるからです。よって、マンツーマンへと対抗するために、多くのチームはGKをビルドアップに組み込むことを試みます。相手チームのGKがいくら前に飛び出すことで有名なノイアーであったとしても、相手CFのマークにつくことはありません。よって、理屈ではビルドアップ側から見て「11対10」が成立する時代となっています。11対10を成立させないために、プレッシング開始ラインを下げてGKをビルドアップから追い出し試合を進める選択肢もありますが、スペイン代表に押し込まれる道を自分たちから選ぶかどうかはチームの戦術次第でしょう。
ウナイ・シモンへの信頼感があるとはいえ、何度も何度もウナイ・シモンを使うスペイン代表のサッカーからは11対10への強い意思と、自陣で得られる時間とスペースを前線に繋げていくことが自分たちのサッカーなんだという表現を感じます。また、ウナイ・シモンから始めるビルドアップに絶対の自信があるのでしょう。GKへのバックパスは、相手の守備に整う時間を与えることになります。しかし、相手の守備が整っていようがいまいが、スペインには関係ないようです。
相手を自陣に引き込んでスペースを手に入れる
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。