WEリーグ初代得点王菅澤優衣香が“フォアザチームのストライカー”を語る――ゴールを量産し続ける理由
打点の高いヘディング、絶対に当たり負けない強さ、クロスに点で合わせる巧さ――。
WEリーグ初代得点王に輝いたFW菅澤優衣香は、多彩な武器を持つゴールハンターだ。ダイナミックなゴールで浦和サポーターを熱狂させ、ゴールパフォーマンスで観客を楽しませる。宝塚スターのような華があり、幅広い層から支持される人気プレーヤーでもある。代表では2度の女子W杯と昨年の東京五輪に出場し、トップリーグでのキャリアは15シーズン目に突入。浦和では6年目になる。周囲とのコンビネーションを確立し、シュートスキルを洗練させ、直近の3シーズンは毎年二桁ゴールを決めてきた。
自身4度目の得点王となった昨シーズンは、「みんながあっての自分だということを、特に強く感じました」という菅澤。試練を乗り越えたWEリーグ初年度を振り返りつつ、今季の見どころを語ってもらった。
「フォア・ザ・チーム」のストライカー
―― WEリーグの初代得点女王になりました。得点王はなでしこリーグ時代も含めて4度目の受賞です。
「初代得点王として、女子サッカー界の歴史に名を刻めたことはすごくうれしいです。欲を言えばチームが優勝した上で得点王を取りたかった(※)ですけど、FWとしてしっかり結果を残せたことはうれしかったですね」
(※注:優勝は神戸。浦和は2位)
―― 特に印象に残っているのはどのゴールですか?
「いくつかあるんですが、WEリーグ初戦の、日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦の1点目は印象に残っています。0-1で負けている状況で後半開始から出場しましたが、安藤梢選手の絶妙なクロスにニアから飛び込んで追いつきました。自分の得意な形で浦和のWEリーグ初ゴールを決めて、最終的に逆転勝ちできたこともうれしかったですね。皇后杯決勝(1-0で千葉に勝利)は、自分自身、すごく気持ちのいいゴールでしたし、初優勝に貢献することができたのも印象深かったです」
―― 毎回異なるゴールパフォーマンスも楽しかったです。両手でいろいろなイニシャルを作って掲げたりしていましたが、どんなことを表現していたのですか?
「ありがとうございます。飼っている猫の名前がリグなので、イニシャルの『r(小文字)』とか、見にきてくれた友達の名前のイニシャルとか、お世話になっている美容室のイニシャルもありました。『これをやってほしい』というリクエストをもらってやっていることもありますね(笑)」
―― 2014年からの直近8シーズンのゴール数を見ると、2016年以外はすべて得点ランキング3位以内に入っています。コンスタントに点を決めてこられた要因は何だと思いますか?
「これまでは筋肉系のケガも多かったので、自分の中ではまだまだ波があると思っています。その中でも点を決めてこられた一番の要因は、チームメイトがうまく生かしてくれていることですね。それプラス、ここ数シーズンは周りの選手たちも点を取るようになったことで、自分をマークするディフェンスが弱くなることも出てきて、点を取るチャンスが広がっています」
―― 周りの選手が安心してボールを預けてくれるから、タイミングも合わせやすいのでは?
「そうですね。これまで練習で何度もすり合わせてきた中で、みんなが自分の特徴を理解していいパスをくれるので。最後はそれを落ち着いて決めるだけ、という形が多いですね」
―― 崩し切って決めるゴールが多いのは、その信頼関係も大きいんですね。
「はい。ゴール前ではまず自分が点を取れるポジションを取るようにしていますが、ちょっとマイナスに出せば確実に味方が決められそうだと思えばそっちを選択します。まずはチームが勝つことが一番だと考えているので。その中で自分がどうやって得点するかを常に考えて、パスを出した後は味方のシュートのこぼれ球を狙っています」
―― 楠瀬直木監督が「菅澤はボールをミートするのが巧い」とコメントしていましたが、確かに速いパスやロングボールに点で合わせるゴールが多いですよね。特に、ヘディングは滞空時間が長くて止まっているように見えます。どんなことを心がけているんですか?
「シュート練習をする時に、みんなが『この辺に蹴れば決めてくれるだろう』という感じでクロスを蹴ってくれるので、そのボールに自分からタイミングを合わせています。合わせてもらうよりその方がやりやすいし、練習の感覚が試合でもうまく生きているのかな、と。ヘディングは他の選手よりも打点が高いと言われるので、その高さが生かせるように駆け引きをしています」
―― ゴール前のポジショニングは、どんなことにこだわっていますか。
「ニアに走り込めば相手DFがマークにつきづらいですし、点で合えばゴールに直結します。あと、ニアに入ることでファーやマイナスの選手が空くという意味でも優先順位は高いですね。自分をマークする選手が自分よりゴール側にいる場合、早く入り過ぎると相手に対応されやすくなるので、クロスを上げる味方とのタイミングを見計らって、相手がボールから目を離した隙に入るとか、そういうちょっとした駆け引きを大事にしています」
―― 2014年(千葉/5位)、2015年(千葉/5位)、昨シーズン(浦和/2位)は、優勝チーム以外で得点王になっています。上位争いや苦しい試合でゴールを決める勝負強さも光りました。
「チームの勝利が一番というのは常に変わらない目標ですが、『自分のゴールでチームを勢いづけたい』という思いをみんなが感じ取ってくれて、他の選手が獲得したPKを蹴らせてくれることにも感謝しています。昨シーズンは特に、『みんながあっての自分だな』と強く感じました。シーズン中にちょっとした病気に見舞われたりしましたが、どんな状況でも自分を使い続けてくれたスタッフや、チームメイトのおかげで最後までやり切れたなと。今までもそうでしたけど、昨季は本当に、仲間に助けられたと実感したシーズンでした」
―― 大変な時期を乗り越えて得点王になったんですね。ちなみに、菅澤選手にとってのライバルは?
「WEリーグの全FWがライバルです。得点ランキングは毎試合チェックしていますから(笑)」
―― 5月末にシーズンが終わり、6月末には代表のフィンランド遠征。7月上旬からチームが始動して、月末には代表のE-1選手権と続きます。オフはわずかだったと思いますが、少し休めましたか?……
Profile
松原 渓
女子サッカーの最前線で取材し、国内リーグの他、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、育成年代のワールドカップなどにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。著者『日本女子サッカーが世界と互角に戦える本当の理由』ほか。