6月14日に行われた大陸間プレーオフの結果、ニュージーランドに勝利したコスタリカ代表がW杯本戦出場を決めた。これにより、日本代表が属するグループEの最後の1チームはコスタリカに決定。ドイツ、スペインという優勝候補2カ国と同組である以上、グループステージ突破を目指す上では少なくともコスタリカ相手に勝ち点3を取るのは戦略上必須となってくるわけだが、そう思惑通りに事が運ぶだろうか。今回の記事では、W杯グループステージ“最後の1チーム”であるコスタリカ代表を、大陸間プレーオフの試合を通じて分析してみよう。
複数のフォーメーションやゲームプランを使い分ける
コスタリカは基本的にはソリッドな守備を武器としたスタイルのチームである。監督のルイス・フェルナンド・スアレスは守備を基準にゲームプランを構築する傾向があるため、フォーメーションは対戦相手やゲームプランによって変化することが多い。
W杯北中米・カリブ海予選を通じては、[4-4-2](あるいは[4-2-3-1])を基調としながらも、[5-4-1]、[4-3-3]などを採用する試合も見られた。守備と一口に言っても、実際にはハイプレス、ミドルプレス、ブロック守備とそれぞれプレー原則や目的が異なるわけだが、スアレス率いるコスタリカ代表もフォーメーションやゲームプランによってどの局面に比重を置くのかが異なる。
[4-4-2]を採用するのは最もオーソドックスなプランの時であり、ソリッドなミドルプレスで中央のゾーンをプロテクトしつつ、前進を許すと無理をせずにブロック守備へと移行していく。相手のアンカーをケアする場合には[4-2-3-1]気味の配置もあるが、基本的なゲームプランは大きくは変わらないことが多い。
一方で、カナダ代表との試合では中盤とFWがそれぞれフラットな[4-3-3]を採用し、ややハイプレス気味に相手のビルドアップに圧力をかけていた。通常ハイプレスを仕掛けてこないコスタリカが、積極的にビルドアップを阻害してきただけでなく、中盤と前線が非常に幅の狭いコンパクトかつフラットな2ラインを作る川崎フロンターレにも似たプレスのかけ方に、カナダ代表は明らかに動揺していた。
このように、コスタリカ代表は守備の中でも複数のゲームプラン、フォーメーションを使い分ける柔軟さを持つ。特筆すべきタレントはいないが、逆にだからこそチームとして柔軟かつ強固な守備組織を作ることができていると言えるかもしれない。
NZのポジショナルプレーにストレスを加える
ニュージーランドと対戦した大陸間プレーオフでも、その柔軟さと堅い守備ブロックは非常に厄介だった。前半は[4-4-2]でオーソドックスな戦い方で臨んだが、ニュージーランドはこれまた突出したタレントこそいないものの、かなり完成度の高いポジショナルプレーを披露し、コスタリカの中盤をほぼ完全に制圧することになった。しかしながら、流れがいい方に得点が入るとも限らないのがサッカーの常であり、比較的ラッキーな形でコスタリカは前半早い時間に先制点を挙げることになった。
リードして前半を折り返したコスタリカは、後半開始から[5-4-1]に守備の基底フォーメーションを変更し、より守備的なゲームプランへと舵を切った。前半からゲームを支配してはいたものの、最終局面でのクオリティ不足が泣き所のニュージーランドは決定機を創出するには至らなかった。さらにコスタリカが守備的に振る舞ったことで、前半以上に決定機創出が難しくなり、最終的にはコスタリカが虎の子の1点を守り切る形で勝利した。
コスタリカの守備を基準点とした戦略のキーポイントは、「少しずつストレスをかけて時間を浪費させる」、すなわち90分という限られた時間を少しずつ削り取っていくことだ。彼らは、劇的なボール奪取からショートカウンターを繰り出すことを狙っているわけではない。強度の高い守備には、高い身体能力に加え、実は優れたプレービジョンが必要になる。なぜなら、相手の攻撃を予測しなければチームとしての「次のアクション」が遅れ、1stDFの決定が遅れてしまい、結果的にチーム全体での守備のインテンシティが高まりきらないためだ。コスタリカ代表のメンバーには、残念ながらそのような身体能力やプレービジョンを備えた選手はあまり見受けられない。
しかし、彼らの武器は中南米らしい球際の駆け引きにある。……
Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd