前回パラグアイ代表相手に4-1で快勝し、勇躍ブラジル代表を迎えた日本代表。現世界ランク1位のセレソンに対してどのような意図を持って試合に臨み、それはどこまで通用したのか。0-1の敗戦の中身を、らいかーると氏が分析する。
序盤の“自己紹介”は、ボール保持者への強度を見せつけることだった。日本は右サイドを起点とした前進からのトランジションを試み、ブラジルは日本のボール保持に対して時間を与えない姿勢を見せる。序盤戦でキーとなった動きは、田中碧のビルドアップの出口となろうとする立ち位置に対して、フレッジがついていく意思を示したことだろう。また、スローインを奪われてネイマールのヒールキックに繋がったように、不用意なボールの失い方は命取りになることを日本は思い知らされる。
ピッチ中央での混乱
5分が過ぎると、試合は落ち着いた表情を見せるようになる。ブラジルのCBがボールを持ち、日本が虎視眈々とボールを奪うタイミングを伺う局面だ。その中で、ネイマールのフリーダムな動きとは対照的なフレッジの役割が、日本の守備のルールを苦しめることになっていく。
ボール非保持では[4-4-2]のブラジルだが、ボール保持になるとフレッジが右インサイドハーフの役割に変化。フリーダムなネイマールは、2トップと左インサイドハーフとフリーマンの役割を縦横無尽に行ったり来たりしていた。ネイマールの立ち位置を基準として、バランスが崩れないように周りの選手が立ち位置を調整するブラジルの配置の前に、日本は守備の基準点を効果的に設定できない時間が続いていった。
主な混乱はピッチの中央で発生していた。古橋亨梧は2人のCBを担当することを愚直にこなしていたが、後方からの「カセミロを見てくれ!」という指示を受け入れることには???な様子だった。ただでさえ数的不利な状況で相手の攻撃方向を誘導する役割を担っていた古橋に、さらなる役割を求めるのは過負荷となる。田中はボール保持になると右インサイドハーフの位置に移動してくるフレッジにつきっきり。であればもう1人のインサイドハーフである原口元気が担当すればとなるが、こちらのエリアには時どきネイマールが出没してくるのである。ネイマールに対しては板倉滉が迎撃する形で対応していたが、板倉のついていけるエリアを越えて移動していくネイマールをケアするのに、原口のサポートはどうしても必要だった。
ならば遠藤航が前に出てくれば良い!という結論になりそうだが、遠藤が出ていくと彼がいるべきエリアをカバーリングする選手がいない。インサイドハーフはすでに相手を捕まえているし、DFラインを上げることも現実的かどうかはなんとも言えないところである。
結果として、板倉ほどに迎撃を行わない吉田麻也対ルーカス・パケタが繰り返されることとなり、この構図を利用されてブラジルにチャンスを与えるようになっていく。
アジア最終予選からの継続
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。