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パリという街を映す華やかさと、スターにも容赦ない物騒さ。パリ・サンジェルマンというクラブが紡ぐ独特な歴史

2022.05.27

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

「今、世界で最もスター選手を擁するチームはどこか?」。この問いに対する答えとして、パリ・サンジェルマン(PSG)の名前は間違いなく挙がるだろう。2021年にリオネル・メッシが到来し、ネイマール、キリアン・ムバッペとともに形成するフロントラインの豪華さは他の追随を許さない。一方で、スーパースターたちに対しても容赦なくブーイングを浴びせる側面もある。そこにはPSGというクラブ、ひいてはパリという街の特殊な事情が関係しているという。そんなPSGの持つバックグラウンド、独自性を紹介したい。

メッシにブーイングの特殊性

 キリアン・ムバッペの2025年までの契約更新が決まった。これでレアル・マドリーへの移籍は当面なくなり、リオネル・メッシ、ムバッペ、ネイマールのスタートリオは2年目を迎えることになりそうだ。

 10回目のリーグ優勝が決まった試合、メッシとネイマールにはブーイングが浴びせられた。さらに一部ファンは試合終了前にスタジアムから外へ出て、自分たちだけで優勝を祝うという行動を取った。傍から見ると何とも不思議である。

 バルセロナなら、メッシにブーイングするなど考えられない。たぶん他のクラブでもそうだろう。メッシとネイマールへの非難は、今季のCL優勝を逃したことが原因と言われている。期待を裏切ったスター選手がスケープゴートにされたわけだが、メッシとネイマールは並みのスターではない。例えば、ヴィッセル神戸のファンは何があってもアンドレス・イニエスタにブーイングすることはないだろう。だが、PSGはそうではない。優勝10回の最多タイ記録なのに、チームを無視してサポーターだけでお祝いというのも聞いたことがない。ただ、これもパリだからこその現象だろう。

現在のチームの顔メッシ、ネイマール、ムバッペ

 PSGというクラブの特殊な歴史を踏まえないと、このサポーターの反応は理解できないと思う。

デザイナーのチーム

 1969年、パリFCが創設された。大都市パリには多くのクラブが存在していたものの、強いチームがなかった。一時はラシンがパリを代表するクラブになりかけたが衰退。パリFCはフランスとしてはかなり若いクラブで、言わば人工的に作られた。翌年にはスタッド・サンジェルマンと合併してパリ・サンジェルマンとなる。

 ところが、3年と経たないうちにパリFCとPSGが分裂。パリ市が負債を肩代わりする代わりに、チーム名から「サンジェルマン」を外せと要求したからだ。このサンジェルマンは市内のサンジェルマン・デ・プレではなく、郊外のサンジェルマン・アン・レーでパリ市ではない。パリにサンジェルマンがくっついていると、パリのブランドイメージが損なわれるということらしい。

 パリFCは1部に残り、PSG(実質スタッド・サンジェルマン)は3部相当からのリスタートになったのだが、74年にパリFCが降格すると入れ替わりにPSGが昇格。ホームのパルク・デ・プランスはPSGに明け渡された。

 この70年代半ばのオーナーはダニエル・エシュテル。トリコロールのユニフォームをデザインしたデザイナーだ。エシュテルはブリジット・バルドーなど芸能人と親交が深く、PSGのファンに芸能人が多いのはこの頃からのようだ。ジャン・ポール・ベルモンド、アダモ、最近ならリアーナやビヨンセまでファンリストに載っている。

 85-86シーズンに初のリーグ優勝を果たす。この時のスターはサフェト・スシッチ、ルイス・フェルナンデス、ジョエル・バツ、ドミニク・ロシュトー。スシッチは旧ユーゴスラビア代表の天才アタッカーだ。フェルナンデスはPSGの生え抜きで後に監督も務めた(そしてロナウジーニョと険悪な関係を築いた)。スシッチは技術面で歴代最高のスターと言われていたし、パリジャンのフェルナンデスはクラブの誇りだった。バツ、ロシュトーとともにフランス代表でも活躍した。

監督時代のルイス・フェルナンデス

テレビ局のチーム

 エシュテルの時代が終わると、1991年にケーブルテレビ局のカナル・プリュスが経営権を握る。

 この時代のスターは、後にミランでアフリカ人初のバロンドールを獲得することになるジョージ・ウェア、フランス代表のダビド・ジノラ、ユーリ・ジョルカエフ。ブラジルとの関係が深くなったのもこの頃でバウド、ライーに始まってレオナルド、ロナウジーニョなどがプレーしている。ほかにもニコラ・アネルカ、ジェイジェイ・オコチャらがそれぞれに時期を代表するスターだった。

PSG時代のジョージ・ウェア。3シーズン所属し93-94のリーグ1など4タイトルを掲げた。なお、現在は母国リベリアの大統領を務めている

 ライーとジョルカエフがいた93-94シーズンに2度目のリーグ制覇。さらに95-96にはクラブ初の欧州タイトルであるカップウィナーズ・カップ優勝を遂げ、翌年も準優勝。ここまでがカナル・プリュス時代の全盛期だ。ただ、その後は低迷が続く。

バルセロナのロナウドと競り合うジョルカエフ。PSGでのプレーは1シーズンのみだったが、カップウィナーズ・カップ制覇に貢献した

 この短い黄金時代と長い低迷の時期に、PSGファンの特殊性が形成された。

 PSGは後に大統領となるジャック・シラク、ニコラ・サルコジといった政治家のバックアップがあり、前記の通り芸能人のファンも多く、スポーツ全国紙である『レキップ』が首都に社を構えることもあって報道の多くはPSG関連。リーグ1でも例外的に華やかな雰囲気をまとったクラブだった。一方で、リーグ優勝はわずか2回だけ。マルセイユやサンテティエンヌに遠く及ばず、この時代のリヨンにも大きく水を開けられていた。つまり、見た目と実力にギャップのあるクラブだった。

 ギャップはスタジアムにも表れていた。欧州最大級の大都市は貧富の格差も大きい。パルク・デ・プランスの半分を埋めるのは格差社会の下層の人々である。北アフリカから来たマグレブ、コートジボワールやカメルーン出身の黒人など様々な移民系が占めていた。さらにサポーターグループは極右から極左までそろっていて、試合当日のスタジアム周辺の通りは暴動やテロを警戒して封鎖される――煌びやかな外見とは裏腹に、かなり物騒な雰囲気のクラブだった。

 サポーターはとげとげしく荒んでいる感じがしていたものだ。社会と戦績への不満が重なっていて、対戦相手はもちろん内部での対立もあり、鬱屈しているうえに攻撃的という、世界でも有数のこじらせたサポーターだったかもしれない。

熱気がこもるパルク・デ・プランスのスタンド

カタールのチーム

 そんなPSGが劇的に変化したのが2011年。カタール投資庁の子会社がクラブを買収した。

 2012-13シーズンからの10シーズンで8回の優勝。それまで2回しか優勝していなかったのと比べれば雲泥の差である。補強するスターたちもそれまでとはスケールが違う。ズラタン・イブラヒモビッチ、チアゴ・シウバ、マルコ・べラッティ、デイビッド・ベッカム、アンヘル・ディ・マリア……さらにムバッペ、ネイマール、セルヒオ・ラモス、ついにメッシまで獲得するに至っている。

2013年、ともにプレーするイブラヒモビッチとベッカム。PSG新時代到来の象徴となった

 70~80年代はそれほど移籍が活発ではなく、90年代にボスマン判決をきっかけにサッカー界の民族大移動が開始されるのだが、フランスは輸出大国となってスターは流出する一方。国内有数のリッチクラブであるPSGでも、獲得できるスターは意外と地味だった。

 98年ワールドカップでフランス代表が優勝しているが、ジネディーヌ・ジダンをはじめメンバーの大半はイタリアなど外国でプレーしていた。さらに、カナル・プリュスの方針も影響していたようだ。ブラジル代表の怪物ロナウドの獲得寸前までいったが、カナル・プリュスが反対して流れたことがあったという。リーグ1を独占放送していたテレビ局としては、PSGだけが強くなるのは好ましくないという驚くべき理由だった。

 皮肉なことに、PSGはカタールのクラブになって初めてパリにふさわしい華やかさと強さを実現できた。娯楽にあふれているパリで、大して強くもないサッカークラブを応援するのは一部のもの好きのすることだったのが、ようやく街に似つかわしいスケールを持つようになったわけだ。

 メッシやネイマールにブーイングを浴びせるのは一部のファンに過ぎない。大半の観衆は世界の逸品であるスターを楽しく“鑑賞”しているに違いない。選手たちのコアサポーターへの反応も「一部に過ぎない」「そのうち忘れる」だった。悲願のCL優勝を達成すれば、確かに今季の「失敗」は忘れ去られるのだろう。リーグ優勝して、CLもレアル・マドリーに敗れるまでは勝ち進んだのだから、本当は「失敗」なのかどうかも怪しい。

 ただ、カタールからの莫大な投資が、それまでの歴史(良きにつけ悪しきにつけ)を洗浄してしまうのだとしたら、すべて忘れられてしまうなら、それはそれで寂しいことではある。リーグ優勝決定当日の一部ファンの行動は、すでに半ば忘れられて顧みられない人々の最後の抵抗だったのではないか。本当にクラブを愛していた(かなりねじ曲がった愛情にせよ)人々の心は、そのうち本当に忘れられてしまいそうだ。

 グローバルで、オシャレで豪華なだけでなく、パリには観光客が安易に足を踏み入れてはいけない場所が存在する。そのコントラストも魅力というなら、荘厳だが内部が腐敗しかけた宮殿のような現在のPSGは、いかにもパリらしいと言えるかもしれない。

ムバッペの電撃残留が決まり、メッシとの共闘が来季も見られることに。悲願のビッグタイトル獲得なるか、注目だ

◯ ◯ ◯

1980年代以降、サフェト・スシッチやルイス・フェルナンデス、ジョージ・ウェア、ユーリ・ジョルカエフ、ライー、レオナルド、ロナウジーニョ、ズラタン・イブラヒモビッチらスターが在籍してきたPSG。そのPSGで2021-22シーズンに活躍したリオネル・メッシ、アンヘル・ディ・マリア、レアンドロ・パレデス、プレスネル・キンペンベ、ジャンルイジ・ドンナルンマの5選手が、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

彼らが得意戦術「中央突破」の新★5選手として登場する特別なスカウト“SUPER STAR FES”のほか、新★5監督が獲得できる“WORLD TOUR EUROPE’21-22”も開催中だ。

すでにゲームをプレイ中の方はもちろん、「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひゲームにトライして、スターたちのポテンシャルを最高に引き出す組み合わせを見つけ出してみてほしい。

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガ

さらに詳しい情報を知りたい方は公式HPへアクセス!
http://sakatsuku-rtw.sega.com/

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Photos: Getty Images

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サカつくRTWパリ・サンジェルマンリオネル・メッシ

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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