決戦は6月6日。ブラジル代表チッチ監督が描く日本戦のプランとは?
6月に行われる親善試合、日本戦と韓国戦を前に、ブラジルメディアでは連日、自国の代表に関する話題で盛り上がっている。
この対戦に向けて、というよりも、ワールドカップへの準備としてチームが集合できる残り2回の機会のうちの1回、という視点になるのは、やはり自然なこと。5月11日に行われたチッチ監督による招集メンバー発表会見でも、W杯に向けた選手の招集枠争いなど、チーム作りに関する質問が相次いだ。
攻撃面の強化を目指すブラジル
その会見を取材した。日本に伝えるためとは言え、日本代表について聞くのは時期尚早と考え、まずは今回の日本戦の意義を聞くと、チッチはこう答えた。
「いつでも期待するのは、チームを強化し、成長させることだ。我われには以前、もっとクリエイティブで、オフェンシブな戦い方を身につけたいという課題があった。ここ5試合でそれが良いレベルに達してきたので、そのレベルを安定させるために、さらに強化したいと思っている」
「最終目標である勝利のためには、堅実であると同時に創造力が必要だ。そして、その創造力をゴールに変えるためには、効果的でなければならない。そのためにも、いろいろな相手と対戦することだ。今回の2試合は、そういう強化の重要なプロセスなんだ」
その言葉通り、合計28人の招集メンバーのうちMFが7人、FWが8人と、攻撃面の強化の意図が見て取れる。南米予選でも様々な選手の組み合わせと起用法を試していたチッチだ。W杯カタール大会では、招集メンバーが通常の23人から26人に増える可能性が高いが、この会見でも「3人増えるなら、その枠を攻撃陣に充てる」と語っていた。
「日本の人たちに嫉妬さえする」
ブラジルメディアの中から、こういう質問もあった。
「サッカーは非常にグローバル化し、どこもスペースが少ないサッカーをするなど、世界中の代表チームの戦い方が似てきている。その中で、今回のアジアのチームとの対戦によって、これまでやってきていない状況が得られるとすれば、それは何か」
チッチの答えはこうだ。
「例えばトルコの場合、戦術システムに則ったプレーを重視し、素早い攻守の切り替えという展開があまりない。また、空中戦に強く、激しいフィジカルコンタクトが多い代表チームもある。今回の2チームにはスピードがある。それによってプレーの時間と空間が縮小される。コンパクトなサッカーをし、選手たちは機敏でスピードがある。もちろん個々の技術的なクオリティも高い。それぞれの代表チームには違った特徴があるんだ。非常に難しい相手であることはわかっている。ブラジルはもう何度も(日本と)対戦したことがあるが、技術的なレベルが非常に上がっているからね」
日本については、こうも語っていた。
「告白するよ。私は日本の人たちの教養を、少し羨ましく思うんだ。言い方は悪いが、嫉妬さえするほどだ」
以前、チッチにインタビューをした際、こういう印象を語ったことがある。
「日本にはスルガ銀行チャンピオンシップ(現Jリーグカップ/コパ・スダメリカーナ王者決定戦)とクラブW杯で2度行ったことがあるんだが、私は日本の人たちをとても尊敬している。彼らは文化的で教養のある、非常に強いメッセージを伝えてくれたんだよ。それは『より良い形で勝つ』ということ。勝つためにはラフプレーもいらないし、インチキで陰湿な挑発もいらない。真正面から見据えて『君たちより良いプレーがしたい』というのを伝えてくれる」
当初、オーストラリアでのアルゼンチン戦を含めて3試合を行う予定で27人を招集したが、そのアルゼンチン戦がキャンセルされた後にも、CBにさらに1人を追加招集した。ヨーロッパでプレーする選手たちの、シーズン終わりの消耗とケガの危険に配慮するためだ。
W杯が目の前に迫った今、今回の試合はチッチやスタッフにとって、“親善”とは言え最大限に生かすためのプランが練られている。そして、W杯を目指す選手たちからも、この残り少ないアピールの場への招集を喜ぶ声が、それぞれのSNSやブラジルメディアへのインタビューで届けられている。
“日本愛”を語るサンパイオ
現在、ブラジル代表ではセーザル・サンパイオがアシスタントコーチの1人を務めている。元代表選手でもあり、横浜フリューゲルス、柏レイソル、サンフレッチェ広島でプレーし、日本でも愛された選手だった。
彼は日本戦への個人的な思いを語ってくれた。
「日本に帰るのは、僕にとってはいつでもうれしいことだ。すごく歓迎してもらえた場所であり、家では家族も、今でもあの文化とともに暮らしている。友達とも再会できるよね。日本代表監督の森保(一)は、僕にとってライバルチームの主力の1人でもあり、仲間だった。だから、僕にとっては特別な瞬間になる。日本は僕が心に抱き続ける国。いつも言うように、すごく幸せな時を過ごした第2の故郷だ。そしてもちろん、チッチが言ったことを望んでいる。僕らの得られるどんな機会でも、チームを強化し、成長させるのに生かさなくてはね」
会見後に話をしに行くと、サンパイオは笑顔で言ってくれた。
「みんな日本での良い思い出がある。チッチと彼のスタッフは、コリンチャンスでクラブW杯優勝を達成した。コーディネーターのジュニーニョ・パウリスタは、2002年W杯で優勝した。東京五輪の金メダルもあった。W杯の前に日本に行って、幸運をもらえるといいね」
Photos: Lucas Figueiredo/CBF, Kiyomi Fujiwara
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。