本誌『フットボリスタ第90号』でリーガ1部の常連だったラシンの今を追った「追憶のサンタンデール紀行」を掲載した。その彼らが先月、ついに2部昇格を達成。取材した木村浩嗣氏に現地を訪れることで見えたクラブの思い、そして未来を展望してもらおう。
5月1日、3月に取材しフットボリスタ4月号にレポートを書いたラシン・デ・サンタンデールが優勝と2部昇格を決めた。14度目(1部へ7度、2部へ7度)の昇格だそうだ。上がったり下がったりの典型的なエレベータークラブである。
優勝決定の瞬間のビデオを見ると、北部特有の曇った空の下、QUEENの例の曲がかかり、センターサークルの周りで手を繋いだ選手とスタッフがぐるぐる回っている。10-11シーズン、ウェンブリースタジアムで見たグアルディオラのバルセロナと同じ祝い方である。
その後の監督の記者会見は、やはり選手たちに乱入され中断された。16-17シーズン、レアル・マドリーのリーグ優勝後、ジダンの会見に乱入したマルセロのシャンパンに、最前列に座っていた私のノートを濡らされたことがあった。衝動的で突発的であるはずの歓喜の爆発にさえもグローバル化は進んでいる。
優勝祝賀会は試合後、市庁舎の広場で行われた。
チームはオープンカーのバスに乗ってスタジアムから、別荘が並ぶ高級リゾート地の象徴たるあの海岸通りを走って市内に入った。市長の案内で選手たちはバルコニーに上がり、そこで次々とマイクを握り、広場を埋めた大観衆に応える。これはサラマンカでも、マドリッドでも、バレンシアでも見た光景だ。
優勝レポートにはカメラマンのナチョや顔なじみになった記者たちのクレジットが入っていた。優秀な広報を持つラシンは「北の王者、再到来!」というグラフィックを作ってSNSで配布。当日はスペインのサッカークラブで4番目の反響数を記録したようだ。
彼らは私の記事に対して「何が書いてあるかはさっぱりわからないが、コルサは素晴らしいと書いてあるのだろう。ありがとう!」というツイートを出していた。アマチュアからプロへ復帰することでラシンの注目度が上がり、お世話になった彼らの仕事に幸があることを祈りたい。
2カ月前の試合レポートの反省
エル・サルディネーロスタジアムを訪ね、クルトゥラル・レオネサ相手の4-0の大勝劇を取材したのが3月9日のことだった。
あれからチームは7勝1分け快進撃で首位を独走、一気に昇格を決めた。取材前から負けなしで計19試合無敗でのフィニッシュだった(優勝決定の翌週末に敗れて記録は途絶えた)。残り4節を残しての優勝はレアル・マドリーと同じ。アンチェロッティのチームに相当する独走ぶり、と言えば今季のラシンの強さがわかるだろうか。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。