アメリカの大手ヘッジファンド「エリオット」が新オーナーとなって約4年、経営面と競技面の双方で劇的な改善を見たミランで、再びクラブ買収話が進展中だ。その背景には何があるのか。「サッカー×ファイナンス」分野の気鋭の論客であり、ミランファンのschumpeter氏が解説する。
4月15日、フランスのスポーツ紙『レキップ』が「米国ファンドのエリオットがミランの売却に向けて、バーレーンのファンドであるインベストコープと接触している」と報じた。その後『ロイター』『ブルームバーグ』といった大手金融メディアからも「インベストコープがミランの買収に向けて、エリオットと独占交渉に入っている」という報道が続き、3日後の4月18日には、在英国バーレーン大使館の公式Twitterが同様のツイートを投稿するに至った(ツイートは現在削除されている)。
買収対価はイタリアのクラブとしては最高額の11億8000万ユーロ(約1593億円)と言われており、交渉が順調に進めば、株式譲渡契約書を来週までに締結し、シーズン終了後にクロージングを迎える見込みであると報道されている。では、なぜミランが、エリオットとインベストコープという両ファンドによる取引の対象になっているのか。また、インベストコープはミランをどう変えていくのか。エリオットがミランのオーナーとなった頃から振り返って考察していきたい。
エリオットによる事業再生
まず、エリオットがミランのオーナーになった経緯をおさらいしておこう。2017年4月に中国人投資家のヨンホン・リー(李勇鴻)がシルビオ・ベルルスコーニからミランを買収したところにさかのぼる。リーは当初、中国の政府系ファンドや金融機関にも参画してもらう形でミランの買収を目指していた。しかし、中国の経済成長が鈍化したことを背景に国外へ資本流出が進んだ結果、中国政府は人民元安を避けることを目的に資金移動の規制を強めた。特にスポーツクラブの買収がその対象とされた結果、リーのミラン買収は行き詰まってしまった。そこで、救世主として現れたのがエリオットである。彼らはリーに3億ユーロを高利率で貸し付けたことで、リーはミランの買収を完了するに至った。
一方、エリオットはリーに貸し付けた資金の担保として、ミランの株式を保有するルクセンブルクのペーパーカンパニーの株式に質権を設定していた。買収から1年3カ月後の2018年7月、リーはエリオットから追加で借り入れていた3200万ユーロを期限までに返済できなかったことから、エリオットが上記の質権を行使し、ミランのオーナーとなった。当時、エリオットは他の投資家にすぐに転売するのではないかと見られていたが、そこから4年近くミランを保有することになった。
この理由について、山田聡氏、szakekovci氏による整理をもとにすると、以下のようにまとめられる。……
Profile
schumpeter
2004年、サッカー雑誌で見つけたミランのカカを入口にミラニスタへ。その後、2016年に当時の風間八宏監督率いる川崎フロンターレに魅了されてからはフロンターレも応援。大学時代に身につけたイタリア語も活かしながら、サッカーを会計・ファイナンス・法律の視点から掘り下げることに関心あり。一方、乃木坂46と日向坂46のファンでもある。