ロシアによるウクライナへの侵攻開始から2カ月。各国が人道的支援を行う一方、政治的・経済的な面では様々な思惑の交錯やそれに伴う批判の声が挙がってもいる。そんな国の一つがドイツだ。4月中旬にフランクワルター・シュタインマイヤー大統領のキーウ訪問が拒否されたのをはじめウクライナへの武器供与問題、天然資源の輸入をめぐるスタンスから新ロシアという報じられ方をすることもある中、サッカー界ではどのような取り組みが行われているのか。ドイツ人記者に伝えてもらう。
数日前のこと、普段は見慣れない選手がドルトムントのユニフォームを身に着けてべストファーレン・シュタディオンのピッチに現れた。その名はアラン・アウジ。弱冠20歳のウクライナ人プレーヤーは、ドルトムントが行ったディナモ・キーウとの親善試合でドルトムント側のDFとして30分ほどプレーした。
アウジは戦争が始まる前にウクライナから逃れ、ドルトムントのU-23チームで練習に参加してきた。この日、ドルトムントは2-3で敗れたが、アウジはさぞうれしかったことだろう。なぜならこの試合には3万5000人の観客が集まり、40万ユーロ(約5200万円)の寄付金が集まった。これらはウクライナの人々を助ける複数のプロジェクトに使われる。「僕は単に運が良かっただけだ」と言うアウジには、前線で戦う仲の良い友人が2人いるという。そして、彼らにとっては「毎日が最後の1日になるかもしれない」のだと。
こうした話は、キエフから2000km離れたドルトムントでも戦争の悲惨さを感じさせるものであり、それこそがこうした親善試合の目的の1つでもある。
避難民を迎えた監督も。各クラブの取り組み
もう数カ月続く侵攻の中でロシア軍の脅威にさらされている人たちは、引き続き援助されるべきである。ドイツのすべてのプロクラブ、多くのファングループやアマチュアクラブが寄付金集めをしたり救援物資を届けたり、または避難民たちの面倒を見たりしている。
例えば、バイエルンはドイツへ逃れてきた人たちに宿泊場所を提供している。「最初からウクライナでの戦争に反対の立場を示し、ウクライナの人たちとの連帯を表明してきた」と語るヘルベルト・ハイナー会長は、「まず子どもたちのための寄付を集めるキャンペーンを行い、クラブの従業員たちが他の多くのドイツ人と同様、すぐに救援物資を集めた」と続ける。さらに、身体に障害を持つウクライナ人たちを支援するプロジェクトを始める予定だという。……
Profile
ダニエル テーベライト
1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。