今季ここまでのJリーグで注目を浴びた出来事の1つが、モンテディオ山形対ファジアーノ岡山の再試合決定だ。競技規則の適用ミスとはいったいどういうことなのか。また、通常の誤審とは何が違うのか。審判員や競技規則に明るい攻劇氏(@kogekidogso)に、今回の事象の起因となった複雑なバックパスルールを紐解きながら解説してもらった。
2022年4月3日、J2第8節 モンテディオ山形対ファジアーノ岡山の試合は、0-1で岡山が勝利を収めたが、この試合の再試合が決定した。
いったいこの試合で何が起きたのか、試合の事象から振り返ってみよう。
10分、山形の半田が左サイドのペナルティエリア角の外側でボールを受けペナルティエリア内の味方GK後藤に足でパスをすると、やや前方にポジションを取っていた後藤の左をボールが通過。そのままボールはゴールへと向かったが、ゴールに入る寸前で後藤が右手でなんとか弾き出し失点は免れた。しかしいわゆる“バックパスルール“の反則であるため主審は岡山に間接FKを与え、得点の阻止として後藤にレッドカードを提示した。
事象発生直後のフィールドでは大きな混乱は見られなかったが、競技規則では今回の事象においてカードを提示することができない旨が記されている。試合途中から再試合の可能性を疑う意見がSNS上で見られるなど、大きな話題となった。
試合後、Jリーグは国際サッカー評議会(IFAB)に確認を取るなどし、最終的にこの判定を理由に再試合を行うと発表。競技規則の適用ミスによる再試合は、30年目のJリーグで初めての出来事である。
今回の記事では競技規則の適用ミスである理由、再試合の決定に至った通常の誤審との違い、バックパスルールの詳細などについて詳しく記していく。ぜひ今後のサッカー観戦の参考にしていただきたい。
競技規則の適用ミスとその背景
まずは、この事象が競技規則の適用ミスである理由について書いていこう。今回の判定は主審が反則と認定したことが間違いなのではなく、レッドカードを提示したことが唯一かつ最大の間違いだった。
競技規則第12条ではGKが不正な方法で手や腕を用いてボールに触れることについて、次のように規定している。
「自分のペナルティーエリア内で、認められていないにもかかわらず手や腕でボールを扱った場合、間接フリーキックが与えられるが、懲戒の罰則は与えられない。しかしながら、プレーが再開された後、他の競技者が触れる前にゴールキーパーが再びボールを触れる反則の場合(手や腕による、よらないにかかわらず)、相手の大きなチャンスとなる攻撃を阻止した、または相手の得点や決定的な得点の機会を阻止したのであれば、懲戒の罰則が与えられる」(競技規則より引用)
この条文が今回の事象において非常に重要だ。……
Profile
攻劇
現役大学生のサッカー審判員資格保持者。自身の審判活動時はコミュニケーションを大事にするよう心がけている。国内外で話題になった判定や関連情報を収集しながら、Twitterを中心にルール解説やレフェリー情報を発信。競技規則の理解がサッカーファン内で進むことは、レフェリーとファン・サポーターの両方に良い効果があると考えている。贔屓クラブはJリーグのFC東京で、年間チケット保持者。