投資家によるサッカークラブ経営への参画が相次ぐ昨今。それに伴い進むサッカーのビジネス化に眉をひそめるファンも少なからずいる中、どういった投資家が求められているのか。ビジネスの専門家が語った内容から考えてみよう。
現代サッカーにおいて、投資家は両義的な存在だ。積極的に受け入れるイングランドのような国もあれば、根強い抵抗が続くドイツのような国もある。資本を安定的に確保する上でサッカークラブにとって投資家は欠かせない存在である一方で、その存在には常に懐疑的な目が向けられる。投資家がサッカークラブに投資する目的とは何か、どのような投資家のタイプがいるのか、そしてサッカークラブにとって理想的な投資家の条件とは……ライプツィヒ商科大学で会計監査を教えるヘニング・チュルヒ教授が、4月11日の『キッカー』誌の中で解説している。
カタールの投資家にとって、PSGの勝利は最優先ではない
ここ最近、ドイツではヘルタ・ベルリンが出資を受けている投資家のラース・ビントホルストと揉めている。チュルヒ教授は、こうした事例はサッカー界では珍しいことでもないと話す。
「動機や目的、そしてクラブとの相性といったものを吟味することなどありません。投資家は、資金繰りに苦しむ多くのクラブから投資の話を繰り返し持ちかけられますが、たいていの場合は双方に戦略的なアプローチがあるわけではありません」
サッカーファンやクラブスタッフと違い、基本的に投資家にとってクラブの競技面での成功は副次的なものだ。競技面で興味があるとすれば、自身の投資に対するリターンに影響がある場合に限られる。
「利回りがすべてではありませんが、投資家たちは慈善家として寄付するわけでもありません。投資の目的はさまざまです。投資家がクラブに出資するのは、成績面での成功を求めているからではないのです。例外を除くと、購入したクラブの株式の利回りを最大限にし、収益を確保することが大半の理由です」
その際に、2つの選択肢があるという。1つ目は、購入したクラブの株に十分な高値がついた時点で売却することだ。2つ目は、利回りの可能性を見越して株を所有すること。多くのサッカークラブへの投資家にとって、魅力的なのは後者だ。
「サッカークラブに投資することで、投資家はさらなる利回りを得る可能性を得られます。例えば、自身の製品のマーケティングや宣伝に使うことができます。あるいは、直接の収益には関係しないものの、間接的なメリットを享受することを目的としていることも多いです。投資家は、政治的な決定に影響を与えるためにサッカークラブへ出資することが多いのです。クラブの重役や責任者と繋がることで、表には出てこないような非公開のネットワークを構築することも可能になります。このネットワークも最終的には、投資家自身のビジネス拡大に繋がります」
この最たる例が、カタールのパリ・サンジェルマンへの投資だ。
「カタールの投資家たちにとって、CLの優勝が第一目標ではありません。むしろPSGがCLに出場することで得られるメディアの露出を狙っています。収入を原油に頼ることをできるだけ減らすために、カタールを観光地として認知させるためのマーケティングの一環として活用しているのです。同時に、世界都市でもあるパリには資本が集積し、政治・経済の重要な決定を下す人々が集います。ここにネットワークを築くことで、マーケティングのポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になるのです」
欧州スーパーリーグ構想によって欧州のビッグクラブがそれぞれ揉めている合間に、PSGのオーナーであるカタール人のナセル・アル・ケライフィがECA(欧州クラブ協会)のチェアマンに収まり、今後の欧州サッカーの政治的な決定に影響を及ぼす地位を獲得したことは記憶に新しい。UEFAの役員でもあり、サッカーの社会的な影響力を求めてやって来る政治や経済界の重鎮たちのネットワーク構築にも最適なポジションを構築したと言える。
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Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。