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これが最前線のダイナミズム。久々の欧州視察で体感したサッカーの進化の最前線

2022.04.23

近年のサッカーの目覚ましい進歩のスピードについては今さら説明する必要はないだろうが、実際のところ水面下ではどのような動きが起こっているのだろうか。かつては楽天にて、現在はシティ・フットボール・ジャパンの代表としてJおよび欧州クラブのフロント事情や世界のスポーツビジネスシーンの最前線を知る利重孝夫が、3月の欧州視察で触れたサッカービジネスやマルチクラブ・オーナーシップ、データ活用などの最新事情をレポートする。

 3月上旬から中旬にかけて、コロナ禍以降初めて欧州に行く機会があった。全部で約2週間の行程のうち、前半はマンチェスターにてCFG関連業務。主目的は、(メタバースにも通じる)昨年11月に発表したソニーとマンチェスター・シティによる次世代オンラインファンコミュニティに関する案件の進捗を図ることであった。ソニーからもビジネスサイドに加えてエンジニア、デザイナーなど各領域のエキスパートに足を運んでいただいた。

 後半は、 footballistaにもたびたび登場いただいているグロボル・フットビズ・コンサルティングの柳田佑介社長と各種事業開発に向けた大陸諸国行脚。柳田さんが代理人を務める斉藤光毅選手が昨年CFG傘下のベルギー2部ロンメルSKに加入した縁もあり、今回ご一緒することになった。

 マンチェスターではプレミアリーグのダービーマッチとチャンピオンズリーグの2試合に絡めたスケジュールを組み、後半はデュッセルドルフに事務所を構えるグロボルメンバーによる完璧なロジスティクス・アレンジの下、各地で欧州サッカー界のダイナミズムを目一杯味わってきた。2年半ぶりの本場で得た刺激やインサイトを一過性のものに風化させず次のアクションに繋げられるよう、記事として書き残しておきたいと思う。

メタバースは一日にしてならず

 旅は初っ端から出鼻をくじかれる。ロシア・ウクライナ情勢の影響を受け、航空各社の欧州便は軒並みキャンセル。何とかJALがロンドン便のみロシア領土上空を飛ぶ西周りから、東西冷戦時さながらの東周り(アラスカやグリーンランド経由)へ航路を大胆に変更して運航しておりそれを利用することに。飛行時間が大幅に延び当初予定のトランジットを逃したものの、何とか最初の目玉イベント、マンチェスターダービーに間に合った。

 メタバースとは、現実世界を仮想空間に再現すること。現実の世界を音や匂い、空気感を含めて把握した上でユーザーが納得できる本物感を仮想空間上で表現するためにもマンチェスター訪問は必須だったが、コロナの影響で無期延期になっていた。ようやく訪れることができた今回は欧州がちょうどCovid-19関連規制を取り払い、ほぼ完全な形で日常が戻った最高のタイミングでの視察となった。

 ダービーではソニーのエンジニアやデザイナーのみなさんにも本物のスタジアムの臨場感を味わっていただくことに。“Chairman’s Lounge”と呼ばれる最上級VIPホスピタリティでは、ソニーのマネジメントにCEOのフェラン・ソリアーノをはじめCFG幹部が次々と声をかける一幕も。メタバース案件への期待度の大きさを感じた。リアルな観戦体験ができたのは言うまでもないが、試合前後のホスピタリティエリアでは至近距離のスタンディング、当然ノーマスクで顔を寄せ合った中での歓談、満員の一般席ではこれまたノーマスクで叫び、大声で歌う観衆に交じっての試合観戦と、日本から英国に着いたばかりの身としてはかなりドキドキな体験ではあった。

 試合自体はクリスティアーノ・ロナウドがベンチにも入らなかったユナイテッドに何もさせずシティが完勝。試合後ホームスタジアムが晴れやかな空気に包まれたのは良かったが、あまりに無抵抗なユナイテッドに拍子抜けする人が少なからずいたようだ。実はシティのローカルスタッフ、特に40歳以上のスタッフは圧倒的にユナイテッドサポーターが多い。翌週のオフィスにて悲哀と諦観に満ちた彼ら彼女たちから、今日の2クラブの置かれた立場の差についてこぼされ続けたのは何ともやるせなかった。

 月曜からは事業モデル策定やスポンサー、マーチャンダイジングとの拡張性、ID周りや権利関係の整理などの各種打ち合わせ。これまでオンラインでのミーティングは何度も重ねてきたが、やはりリアルで顔を突き合わせお互いのコミットメントレベルを確認することの重要性を噛み締める。メタバースは一日にしてならず。サービス開始に向けた長期にわたるプロジェクトである。今回の訪問では経営戦略部門の若手オックスブリッジ出身者を引き抜き、メタバースプロジェクトのマネージャーとしてフルコミットさせるべくHQを説き伏せられたのが一番の成果だったかもしれない。

 CL(スポルティングとのラウンド16第2レグ)の日はちょうどCFG役員会当日で、合わせて傘下各クラブのCEOや責任者が集まる月一の定例会議があった。ここでもこれまで毎月オンラインで顔を合わせていた面々と「初めまして」「久しぶり」と挨拶を交わし合うことになったのだが、その中のマイク(ロンメルCEO)に「今週末、試合を観に行くよ。Kokiもいるし」と話しかけたところ、彼が俄然前のめりに。「Kokiはしばらくケガをしていたけれど、先発ロースターに復帰して彼の特徴のクイックなプレーで違いを見せ始めているよ。シーズン開幕当初に決めたKokiのゴールは、今シーズンリーグ全体のベストゴールだと自分は思ってる!」と一気に捲し立ててきた(笑)。

ロンメルCEOが絶賛した、2021-22リーグ開幕節ワースラント・ベヘレン戦での斉藤のゴールシーン

 ロンメルはシーズン途中に2度も監督が代わるなど、買収に伴うクラブの体制変更の影響もあってかかなり低調な状態が続いてしまっていたが、終盤になって組織体制が徐々に安定し、つられてチーム状態も上向きでここへきて無敗記録を伸ばしている。(3月31日時点)クラブのトップがグループ内の育成クラブとしてのミッションを理解し、所属する若手選手の成長、ステップアップにコミットしている様子が確認できた。

 同日、こちらもロシア・ウクライナ情勢の影響の下、過酷な長時間フライトの後に柳田さんがマンチェスター入りし、CFGがこれまで獲得してきた食野亮太郎選手、板倉滉選手、斉藤選手などを担当するエマージング・タレント部門の責任者とともにスタジアムへ。試合観戦を兼ねながら、斉藤選手に関するこれまでの振り返りと今後の成長に向けたロードマップについて話を交わしていた。加えて、柳田さんは私が昼間の会議で一緒だった傘下 の育成クラブ(ジローナ、トロワ、ロンメルなど)各CEOともネットワーキング。1週間後にはさっそくバルセロナからジローナまで足を延ばし、当初予定には入っていなかった現地クラブ関係者との交流も行えた様子だった。

 その後、当の英国人本人たちが「ちょっと進み過ぎ」と苦笑いする制限なしの生活スタイルにすっかり慣れてきたところでドイツへ移動。マンチェスター空港にてルフトハンザの機内へ入った途端に医療用マスクを着用するよう言われ、同じヨーロッパとはいえ各国のコロナ対応の違いを実感する。

マルチクラブ・オーナーシップによる前進を実感

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ビジネスマンチェスター・シティロンメルSK

Profile

利重 孝夫

(株)ソル・メディア代表取締役社長。東京大学ア式蹴球部総監督。2000年代に楽天(株)にて東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸事業譲受、FCバルセロナとの提携案件をリード。2014年から約10年間、シティ・フットボール・ジャパン(株)代表も務めた。

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