今月8日、福島県の尚志高校にサッカーメディア関係者が続々と集まった。同校を3月に卒業したばかりのU-21日本代表DFチェイス・アンリの加入先発表会見を取材するためである。選手本人と両親、高校の監督に加えて、オンラインで参加したのはシュツットガルトのスベン・ミスリンタートSD(スポーツディレクター)。欧州屈指の“目利き”として知られる彼がJリーグ経験ゼロの18歳に惹かれた背景に、現地で取材した川端暁彦氏が迫る。
香川、遠藤、伊藤…日本人選手との深い縁
「素晴らしい選手ですから、クラブにとって大きな財産になることは間違いないと確信しています。アンリが私たちを選んでくれたのは、我われにとって非常に嬉しいことです。非常に厳しい競争でしたからね。ヨーロッパ中の他のクラブから大きなオファーがあった選手ですから」
スベン・ミスリンタートSDは会見冒頭、そう言って微笑んだ。かつてボルシア・ドルトムントでチーフスカウトを務め、ロベルト・レバンドフスキ、ウスマン・デンベレといったキラ星のごとき人材を集めた目利きは、日本サッカーにとっては「香川真司を見出した人」として知られてもいる。
「現在も遠藤航と伊藤洋輝という2人の日本人選手が在籍しているように、シュツットガルトには(日本人選手の)伝統が定着しています。私個人としても、ボルシア・ドルトムントで香川真司と契約を結んだ経験がありますしね」
質問される前から早くも語ったとおり、日本サッカーと日本人選手のポテンシャルを高く評価してきた人物でもある。
「日本人選手との付き合いは、私がボルシア・ドルトムントのトップチームにおけるチーフスカウトを務めていた当時から始まっています。そこで初めて契約締結に至ったのが香川でした。それ以来、私は日本の市場、中でもJ1リーグとJ2リーグの動向を注視し続けています。特に気に入っている日本人選手の特徴は素晴らしい仕事ぶりや鋭い洞察力、そして優れた技術力です。そして何よりも、チームプレーヤーであること。グループの精神的支柱になってくれますから」
チェイスについても「素晴らしい教育を受けてきたことがわかる」と語るように、ミスリンタートSDは日本人選手の“エデュケーション”とそれによって培われる精神性を高く買っている。
「私は日本の文化、人々、そしてサッカー選手が大好きなんですよ。鍛錬を怠らず、高い労働倫理で一所懸命に働く価値観がありますから。チームの団結力や一体感をピッチに立っている11人の選手だけでなく、ベンチも含めて高めていくという考え方が好きなんです。また、非常に謙虚でありながら、選手として向上するために貪欲である点も気に入っています。それは特に、アンリのような若手が段階を踏みながら将来的に最高の選手になる上で、欠かせない要素なんです」
このあたり、多少盛り気味に話している部分はあるだろうが、実際に強化責任者として遠藤や伊藤の獲得に動き、彼らを主軸としてプレーさせている事実を思えば、単なる社交辞令というわけでもないだろう。
恩師の言葉に重なる“人間性”への評価
そう語った名伯楽は、チェイス個人についてはこんな評価を話している。……
Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。