4月10日の天王山では2-2のドローに終わり、優勝争いがますますヒートアップするプレミアリーグ。勝ち点1差で首位マンチェスター・シティを追うリバプールのユルゲン・クロップ監督は、4月6日の『シュポルトビルト』のインタビューで自身とペップ・グアルディオラ監督、そして今季のプレミアリーグについて語っている。
求めているのは“世界最高”ではない
マンチェスター・シティとの直接対決に向けて対策を問われたクロップは、これまでの自身のチームづくりの目的がペップ・グアルディオラのものとは違うことを説明した。
「シティは尋常ではなく、際立って素晴らしいサッカーをしている。そして、ペップは世界最高の監督だ」とライバルにリスペクトを示している。その一方で、自身のチームづくりの計画について語り、ペップとの違いを強調した。
「私が監督になってから、世界最高のチームを率いることなんて一度も計画したことがなかった。そうではなく、世界最高のチームを倒せるチームを率いたかったのだ。そして、私たちリバプールはそれができる。毎回というわけにはいかないが、他のチームよりは明らかに頻度が高い」
“世界最高のチーム”と“世界最高のチームを倒せるチーム”。ただのレトリックの違いのようにも見えるが、ここにクロップのサッカーに対する考え方が見て取れる。理想のサッカーを追求するというよりは、グアルディオラを始めとする強敵を相手にし、彼らのサッカーへの対抗策を練ることに楽しみを見出しているのだ。
「マンチェスター・シティの試合分析は、楽しみと仕事が混ぜ合わさったようなものだ。彼らの試合は喜んで見るが、他方ではシティに勝つためのいまだに誰も見つけていない方法や、これまでそれほど示されていない方法を見つけ出さなければならない」
一時期“ストーミング”と呼ばれたゲーゲンプレッシングや、トランジションを全面に押し出したドルトムント時代の“アクセル全開のサッカー”がいまだに強調されるクロップ。この言葉から読み取る限り、それが自身にとって理想のサッカーだったからというよりは、当時の若手主体のドルトムントではそれが最も勝算の高い戦い方だったと理解できる。
常にチャンスがあるのがサッカー
この“世界最高のチームを倒せるチーム”という考え方には、クロップ自身のサッカー観が反映されている。
「多くの人々はハイライトしか見ていないからわからないかもしれないが、例えばワトフォード戦ではGKのアリソンがビッグセーブをしなければいけなかったし、相手が決定機を外してくれた。バーンリーだってシティ相手に、2度ほど決定的な場面があった。つまり、チャンスは常にある。それがサッカーだ」
どんなに力の差があったとしても、やりようによっては、チャンスはゼロではない。そして、どんなに少なくとも、その可能性を実現するために準備を進める。ドイツ2部の常連だったマインツを1部に引き上げ、アンダードッグとして戦ってきたクロップならではのメンタリティだ。
ドルトムントも、今でこそ安定した強豪チームという顔をしているが、クロップが来る直前までは資金難で残留争いに苦心していた。常に「置かれた状況の中でいかに強敵を攻略するか」ということにフォーカスすることが、クロップの監督としての原点なのだ。
今を楽しむための目標設定の妙
そういった経験は、目標設定の妙にも表れている。「優勝が狙えない時は、少なくともUEFAチャンピオンズリーグの出場権を獲得する。自分たちの状況は、いつもそうなんだ。イングランドでは、それも十分なほど難しいからね」
そもそも、クロップは今季のリーグ戦でここまで優勝争いが均衡するとは思っていなかったようだ。「昨年のインタビューで『CLの出場権獲得もちょっと難しい』と苦笑しただろう。ところが、それがどうにかなった。まさかそうなるなんて、あのときは予測もしてなかった」と話す。
「シティとの勝ち点差なんて、ほとんど気にしていなかった。シティを追いかけるなんて、そもそも目標にもならなかった。CLの出場権を獲得するために、まずはチェルシーに離されないようにすることを目標にした。それだって簡単なものじゃない」と振り返り、チームが不調でも崩壊させないような目標設定の妙が見て取れる。
「プレミアリーグの残り試合を全部勝つ可能性なんて、それほど大きくないだろう。それどころか、そんな可能性なんてほとんどない。だが、対戦相手との組み合わせを1試合ずつ見ていくと、どうにか勝てそうな気がしてくる。私たちはこの旅を楽しみたいんだ。今の置かれた状況を楽しんで、最後にどうなるか見てみようじゃないか」
その都度、置かれた状況に充実感を見出し、楽しむための目標設定。そして、それを実現するために次の対戦相手への対策を練る。シーズンが佳境を迎える中、クロップ率いるリバプールはフローの真っ只中にいる。
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Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。