谷口彰悟が俳優業へ転職!? 川崎フロンターレ社員が語る、エイプリルフール企画の裏側
今年も4月1日に各Jリーグクラブが“エイプリルフールネタ”を発表した。その中でも反響が大きかったものの1つが川崎フロンターレの「谷口彰悟選手 転職のお知らせ」だ。同日に発表された株式会社リクルートとのオフィシャルパートナー契約締結発表と連動した企画で、サポーターを大いに喜ばせた。異例とも言える“エイプリルフール×パートナーシップ契約”の掛け合わせはどのような経緯で誕生したのか。担当した広報部の佐藤弘平氏、営業部の鈴木拓輝氏に話を聞いた。
「さすがキャプテン。良い表情を作ってくれました」
――このインタビュー取材を行っている4月1日(金)17時30分の時点で、同日9時に投稿された『谷口彰悟選手 転職のお知らせ』ツイートは4000RTを超えています。
佐藤「予想以上の反響で驚いています。『いいね』の数も現時点で1万7000万件もついていて、『中村憲剛引退のお知らせ』に次いでクラブ歴代2位の記録です。クラブが初タイトルを獲得した時よりも反応があります(笑)」
――要因は何だと分析していますか?
佐藤「まずはタイミングが良かったのだと思います。谷口選手が日本代表で活動した直後で注目度が高かったこと。もう1つは画像のクオリティ。過去に撮影した写真を合成する形でも制作できましたが、この企画のために撮りおろした努力も伝わっているのかなと」
――タイミングという観点では、3月上旬に企画検討を開始して、3月中旬に撮影が行われたと聞きました。つまり、サッカー日本代表のW杯出場決定(3月24日)前に準備が進められていた訳ですが、4月1日時点でW杯出場が決まっていない可能性(リスク)についてはどのように考えていましたか?
佐藤「リスクは認識していましたが、それ以上にW杯が決まっていた場合の期待値の方が大きいと考えていて、リクルートさんとも相談した上で『やろう! 彰悟を、日本代表を信じよう!』と(準備を)進めました。この企画に限らず、選手を起用したキャンペーンはケガや不調のリスクはあるので、ネガティブな方を考えるより、最も反響が大きくなるように“攻める”のがフロンターレらしさでもあります」
――今、社名が出てきた通り、当企画はリクルート社とのオフィシャルパートナー契約締結発表を兼ねている点も面白いポイントです。
佐藤「4月1日にリクルートさんとの契約発表が確定事項として先に決まっていて、この発表を盛り上げるためにエイプリルフールを活用できたらいいな、という順番で企画が検討されました。リクルートさん(の業種)に関係する“転職”をテーマにネタを考えた時に、昔から正統派の石原軍団的なカッコ良さがあると評判の谷口選手が俳優に転職するのは面白いんじゃないかと思い付きました」
――結果的にその人選は大成功でした。本物の俳優にまったく引けを取らないカッコ良さです。
佐藤「代表活動直前の大事な時期だったので、最初に企画を説明した時は少し迷っている様子でした。けど、意図や目的を何度か説明して、最後は『やります』と了承してもらいました。谷口選手には(撮影場所である)クラブハウスの浴場でシャワーを浴びてもらったり、お風呂に入ってもらったり……本人からは『ここまで体を張ったのは初めて』と言われましたが、さすがキャプテン。良い表情を作ってくれました」
――フロンターレはバナナの被りものをはじめ、コミカルな形での選手稼働の印象が強いのですが、谷口選手に関してはクラブとして男前路線でプロデュースしていく方針を持っていますか? 毎年恒例のハロウィン企画(KAWAハロー!ウィンPARTY) でも谷口選手は「五条悟」(2021年)、「スナフキン」(2020年)と、いわゆるカッコいいキャラクターへの仮装が続いています。
佐藤「ハロウィンに関してはプロデューサーの登里(享平)選手 と相談している部分もありますが、イケメンのキャラクターが務まる選手は貴重なので、そこは谷口選手に任せて、新加入選手や意外性がある選手に面白いネタを担ってもらうという形にはなっていますね。もう谷口選手は最後まで王道路線を歩いてもらおうと思っています」
社内外の連携
――もう1つの成功要因として挙げられた「画像のクオリティ」に関しては、細部へのこだわりが印象的です。『お風呂刑事』では、共演者として谷口選手と同郷の車屋紳太郎選手の名前があったり、主題歌が記載されていたり。
佐藤「まず、フロンターレの社風として『やるなら、しっかりやる』ということがあります。『車屋はどんな役で出るんだろう?』、『鬼さん(鬼木達監督)も出るの!?』など、サポーターが細かいところにも注目してリアクションしてくれるので、こちらとしてもやりがいがありますね。このポスターでは『入浴作法監修』という形で川崎浴場組合連合会さんの名前を入れさせてもらったのですが、(名前を使う)相談をした際には『めちゃくちゃ面白いね! どんどん使っていいよ』と許諾してもらえました。そういう周りの方々の協力にも助けられています」
――画像制作においては、リクルート社からの素材協力もあったとか。
鈴木「パートナー契約には今回の企画は含まれていないのですが、趣旨を説明したところ『是非、お願いします!』と(本物は)松坂桃李さんが起用されている広告ビジュアルの素材を提供していただきました。求人票に関してはリクルートさんも素材をお持ちでなかったので、(リクルートダイレクトスカウトの)HPページからソースコードなどの情報を調べて、色味など本物に近いビジュアルを追求しました」
――営業部の業務の幅は広いんですね(笑)。今の話を聞いて、部署の垣根を越えたクラブ内の連携も高いクオリティを出せる要因の1つではないかと感じました。
鈴木「部署間で密に連携できていることは大きいと思います。フロンターレは部署間の心理的距離が近いことが強みで、(営業部に所属する)私もイベントやプロモーションの仕事を一緒に行いますし、他部署に協力をお願いすることは日常的にあります。フロンターレは選手の稼働が多いので、それは強化部に対しても同じです」
――求人票の記載内容しかり、ユーモアを忘れない姿勢もフロンターレの魅力です。企画の発想法や、意識している着眼点があれば教えてもらえませんか?
佐藤「私の場合は0から1を生み出すことが難しいので、いろんなものから0.1の要素を引っ張って、足して1にするようなイメージですね。流行についていけなくなるのが怖いので、音楽番組や映画を観たり、アンテナは常に張るようにしています」
――以前、田中和也さん(川崎フロンターレ 営業部) は「月に1回のサポーターミーティングからアイディアを得ている」という話をされていました。
佐藤「今もその会議は続いていて、確かにサポーターからの意見はとても参考になります。試合会場で直接話を聞くこともありますし、ツイッターでの評判を調べることもしています」
――直接、間接の違いはあっても、サポーターとの共創的にアイディアが生み出されているのでフロンターレの企画は共感度が高いものが多いのですね。
佐藤「まあ、突き詰められていない企画をやった時はシビアに『つまらない』とサポーターから言われる時もありますけどね(苦笑)」
――(笑)。そのサポーターとフロントスタッフの距離感もフロンターレの強みだと思います。最後に今後の活動について一言いただけますか?
鈴木「パートナー企業さんとは単純に企業名の露出を増やすだけではない、サポーターの方に楽しんでいただける企画を検討していく予定なので、楽しみにしておいてください」
佐藤「選手たちはピッチ上で十分カッコいい姿を見せてくれているので、広報としてはピッチ外も含めて意外な一面もお伝えして、フロンターレを身近に感じてもらえるように頑張ります」
Photos:©KAWASAKI FRONTALE
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime