難敵オーストラリア代表に敵地で勝利し、7大会連続のワールドカップ本大会出場を決めた日本代表。引き分けでも有利な立場で最終戦を迎えられるという状況、両者に相次いだ主力の欠場など様々なファクターが絡み合う中での一戦で繰り広げられた攻防について、らいかーると氏に分析してもらった。
オーストラリアに勝てばワールドカップ出場が決まる日本。引き分けでも出場権を大きく手繰り寄せることができる。裏を返せば、オーストラリアは勝たなくてはいけない試合。両チームのこれまでの試合を振り返ると、オーストラリア戦で息を吹き返し連勝街道の日本と、日本戦での敗戦以降、試合の臨み方にぶれがあったわけではないが、呪われたかのようにポイントを落とし続けているオーストラリア。その呪いからの解放とワールドカップの出場権確保という現実的な目標がこのタイミングでリンクしているオーストラリアにとっても、1試合以上の意味を持つ試合となっている。
ただし、両チームともにケガ、コンディション不良、コロナ禍で欠場選手がずらりとなっている。日本も大迫勇也、酒井宏樹とスタメンクラスの選手が欠場しているが、オーストラリアもマシュー・レッキー、ジャクソン・アーバイン、トム・ロギッチを欠き、日本よりもダメージが大きいと言っても過言ではないだろう。そんなめぐり合わせの試合で両チームが試されたのは、最強の11人ではなく最強の23人を構築してきたか否かであった。
速攻におけるリスクをどのように考えるべきか
天候は大雨。ピッチの状況によっては技術的なエラーが引き起こされ、プレースピードが落ちてしまうことが往々にしてある。実際にパススピードの低下、ボールを止めることへいつも以上に求められる集中によって、両チームのボールを動かすテンポには突然の休止が挟まってしまうことがたびたびであった。
しかし、42秒に見られたオーストラリアのGKからボールを繋ぐ姿勢は、最終予選を通じてぶれてこなかったオーストラリアの意地を垣間見た瞬間となった。絶対に負けられない戦い、さらに悪天候でも、自分たちのスタイルを貫く姿勢こそ、オーストラリアを支えてきたプライドみたいなものだと感じている。
ボールを繋ぐオーストラリアに対して、開始直後こそはボールを奪いにいくスタンスを見せた日本だったが、時間の経過とともに全体のラインを下げて対応するように変化していった。[4-3-3]でプレッシングというよりは、[4-5-1]で枚数をそろえて対応する振る舞いには、この試合における失点の重みを強く意識しているように見えた。相手のGKとCBコンビに対して孤独なプレッシングをかける浅野拓磨は、徐々にカウンターに意識を集中させるようになっていく。
ボールを保持する機会を手に入れたオーストラリアの策は、中盤の配置を変更することによって日本の3センターとの勝負に出ることだった。ジャンニ・ステンスネスがアンカーのように振る舞い、コナー・メトカーフがフルスティッチのいる列まで出ていくことで、日本の3角形と噛み合わせない3角形の構築に取り組み出した。
オーストラリアの変化に対して、誰にボールが入った時に誰が行くかという日本の役割分担が曖昧な時はボールを運ばれ、役割がはっきりしている時はボールを奪えてショートカウンターをすることができていた。特に自由なアイディン・フルスティッチに対して放っておくか、ついていくかの判断で良くも悪くもブレが生じていたように思える。
問題はこの状況がどちらに対して優位なのか?ということだが、どちらかと言えば南野拓実のシュートラッシュに繋がったように、日本にとって優位な状況だったのではないだろうか。オーストラリアのビルドアップは自陣の選手が保有している時間とスペースを前列の選手に繋げていくこともできれば、突然に博打のようなパスをすることもある。相手が自分たちを凌駕してくればボールを運ばれてしまうし、自分たちのプレッシングがはまればショートカウンターを繰り出せる構図は、日本にとって決して分の悪い構図ではなかったように思う。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。