2月8日。株式会社カインズが前橋市と共同会見を開き、メインスポンサーを務めるザスパクサツ群馬へ専用のサッカーグラウンドとクラブハウスを寄付する旨を発表した。かねてからグラウンド問題に悩まされてきたチームにとって朗報であることは間違いないが、このことは今年で設立20周年を迎える群馬にとって、どういう歴史の延長線上にあったトピックスなのか。創設時からクラブを追い続けてきた伊藤寿学が、J2下位からの大逆襲を期す彼らの思惑を解説する。
「Jリーグ開幕直前順位予想」はサバイバルゲームへのゴング
『Jリーグ開幕直前順位予想』――。
サッカー雑誌、サッカー専門紙などのサッカーメディアが一斉に今季の予想順位企画を展開する時期が到来した。私自身、J2のザスパクサツ群馬取材歴15年以上、人生の多くの時間を担当クラブに捧げ、選手、サポーターと喜怒哀楽を共有してきた。
2018、2019シーズンは群馬のJ2陥落に伴い、J3生活を経験、Jリーグ取材現場の“格差社会”も味わった。J2からJ3への降格は、J1からJ2への降格とはワケが違う。クラブはJリーグからの分配金が、1億5千万円から3千万円に減額される(降格1年目は救済金9千万円が支給)。
J3取材は、これまで縁のなかった街に行けるため、最初は楽しいツアーだった。地方グルメを満喫するたび「J3って悪くないかも」と思ったが、現実は厳しかった。フリーの取材者にとってはメディア露出激減に伴い、定期的な仕事はほとんどなくなる。J2とJ3の間には、日本海溝より深い“溝”が存在しているのだ。その苦しみを知っているからこそ、降格は避けなければいけない。
『Jリーグ開幕直前順位予想』は、昇格レースに加わるであろうチームにとっては胸踊るタイミングかもしれないが、毎年残留争いの修羅場を味わっている地方J2クラブの番記者にとっては、サバイバルゲームのゴングだ。各クラブのイン・アウト情報や選手名鑑などをチェックしながら考えることは、「どのクラブが今季の降格候補か」。
そして、元Jリーガー識者や各取材者の予想を隈なくチェック。群馬を降格圏に記した人の名前を、意味もなく脳裏に焼き付ける。さらに、念のためスクショ(スクリーンショット)を、証拠として押さえておく。シーズン終了後に、当事者のSNSに送りつけてあげようとも思うが、これまでのJ2において群馬は、ほぼ100%残留争いになっているため、実現していない(J2・22クラブ制後)。
【2012年以降の結果】
2021年 18位(4クラブ降格シーズン)
2020年 20位
2019年 J3・2位(J2復帰)
2018年 J3・5位
2017年 22位(J3降格)
2016年 17位
2015年 18位
2014年 18位
2013年 20位
2012年 17位
過去10年の結果を見ると、J3時代の2シーズン以外のJ2結果は、すべてが残留争い。シーズン序盤に低迷し、サポーターによる“恒例のバス囲み”を経て(コロナ禍前)、なんとか降格圏を脱出し、冷汗を拭いながらシーズンフィニッシュするシナリオとなっていた。
北関東のライバル水戸ホーリーホック、栃木SCが進化の兆しを見せつつある中、群馬も1度くらいは1桁順位ないしはトップハーフを狙える位置につけてもいいはずだが、ブレイクスルーのシーズンは一度もなし。群馬はJ2ボトムの主となっている。
今季の『Jリーグ開幕直前順位予想』も軒並み残留ライン前後の位置付けが並ぶ。「今に見てろよ」と心の中で叫びつつ、開幕を待っている。これまでであれば、「今に見てろよ」は、負け犬の遠吠えに過ぎなかったのだが、今季ばかりは違う。群馬というクラブが上昇気流に乗るルートがはっきりと見えているのだ。
クラブ20周年に悲願の新グラウンド整備へ
2月8日、群馬が本拠地を置いている前橋市と、クラブメインスポンサーの1つであるカインズ(本社・埼玉県本庄市)が共同で記者会見を実施した。その会見で、ホームセンター事業を展開するカインズが『企業版ふるさと納税制度』を活用して、群馬専用のサッカーグラウンドとクラブハウスを郊外に整備し、前橋市へ寄付することを発表したのだ。
『企業版ふるさと納税制度』は、自治体の地方創生事業(内閣府に地域再生計画として認可されたもの)に対して、企業が寄付を行った際に税額が控除される仕組み。企業は最大9割の控除が受けられ、各地域で官民一体となった事業が進んでいる。……
Profile
伊藤 寿学
1973年群馬県生まれ。大学卒業後、英国放浪の旅に出掛けて、リバプール・アンフィールドスタジアムの雰囲気に魅了される。帰国後、地元クラブであるザスパクサツ群馬を立ち上げから取材。『エルゴラッソ』群馬担当として取材するほか、有料ファンサイト『群馬サッカーNEWS Gマガ』を運営。著書にザスパクサツ群馬のJ2復帰ストーリーをまとめた『乾坤一擲』(内外出版)、『隠れた野球王国群馬 監督たちの甲子園』(竹書房)、編書に『前育主義』(山田耕介監督著/学研)。