パリ・サンジェルマンはなぜレアル・マドリーを圧倒できたのか?ムバッペ爆走、ビニシウス沈黙のCL第1レグ「5つのポイント」
いよいよ始まったUEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメント。そのラウンド16初日の大一番、2月15日に行われたパリ・サンジェルマン対レアル・マドリーの第1レグは、1-0で前者に軍配が上がった。ポチェッティーノ監督のチームがスコア以上に圧倒した“前半90分”のキーポイントを木村浩嗣氏が解説する。
ムバッペの大嵐が過ぎてみれば1-0での敗戦。94分の決勝ゴールであと数十秒耐えれば引き分けだった、と悔やむ声もあるものの、シュート数22対3、うち枠内は8対0、CKの数は7対1、攻撃回数74対31、ポゼッション57%対43%というスタッツを見れば、パリ・サンジェルマンの勝利は妥当だし、最少失点差の敗戦で済んで良かった、というのがスペインメディアの感想である。
見ていた感覚から言っても、レアル・マドリーが優勢だった時間帯は90分間一度もなかった。互角の展開だったのが、40分からハーフタイムを挟んで49分まで、PK阻止の勢いがあった61分から63分まで、ネイマールが途中交代で入ってプレスが弱まった(詳しくは後述)72分から88分まで。残りの60分強はパリSGが優勢だった。
この試合を5つのポイントから分析してみた。
①パリ・サンジェルマンのプレスのメカニズム
まずはポチェッティーノのチームがあれほど前からプレスをかけてくること自体が意外だった。
試合前の数字で、パリSGの敵陣でのボール回復数は32チーム中最少レベルだった。それだけ前からボールに奪いに行っていない、という印。ムバッペ、メッシ、ネイマールにプレスは期待できず、自陣に誘(おび)き寄せておいて彼ら3人のスピーディーでテクニカルなカウンターで止めを刺す、というやり方でマンチェスター・シティ相手にも互角以上の結果を残しグループステージを勝ち上がってきていた。
積極的なプレスは、2カ月半欠場中だったネイマールに代わり、守備にもエネルギッシュなディ・マリアが先発、という条件が決定的に影響したと思う。
プレスのメカニズムは次の3つのフェーズによって決まっていた。
1.ボールロスト後
ロスト後に直ちにプレスが原則。奪い返せばビッグチャンスになる敵陣深くになるほど激しく、ムバッペも積極的に参加していた。人数が足りない時のみパスコースを切りつつリトリートする。
2.相手がDFやGKへのバックパスで態勢を整えてきた場合
こちらも態勢を整えて「さあパスを出してみろ!」という形にする。
[4-3-3]のレアル・マドリーに対し、マークの対応関係は以下の通り。4人の相手DFに2トップが相対する。中盤は3人の相手MFに対して3人がマンツーマンマークし、1人を余らせる。最後尾は相手の3トップにDF4人で対応する。プレスの最前列を2人の数的不利とすることで、中盤と最終ラインに1人ずつ数的有利を作る。まあ、後ろでボールを回されている分には痛くも痒くもない、ということだ。
個人名を入れると例えばこんな感じ。ムバッペとディ・マリアが最終ライン(カルバハル、ミリトン、アラバ、フェルラン・メンディ)ににらみを利かせる。メッシがカセミロを、ダニーロがクロースを、ベラッティがモドリッチをマークし、底にパレデスを余らせる。ハキミ、マルキーニョス、キンペンベ、ヌーノ・メンデスの4人がかりで、ビニシウス、ベンゼマ、アセンシオの3人を抑える。
ここで重要なのは余ったMF、パレデスの役割。メッシはポジショナルにマークはしているが、ボールは追わない。奪い返した時のショートカウンターのために体力を温存させた方がチームとして得だから。よって、メッシがカセミロのマークを外した時には、直ちにパレデスが詰めてマークを引き継ぐ。
ムバッペも同様。よって、例えばカルバハルにボールが出た時には、まずN.メンデスが詰める。同時に、N.メンデスが離したアセンシオのマークにはキンペンベが横にずれるか、パレデスが駆けつけて対応する。
こういうふうに1人か2人の連動でメッシとムバッペの守備を補いつつ、カウンターを待つ。
3.相手GKのキックでプレーが再開する場合
フィールドプレーヤー全員が相手の全員をマンツーマンマークし「さあボールを出してみろ!」という態勢に入る。
例えばこんな感じ。ディ・マリアがアラバを、ムバッペがミリトンを、ハキミがF.メンディを、N.メンデスがカルバハルを、メッシがカセミロを、パレデスがクロースを、ベラッティがモドリッチを、ダニーロがビニシウスを、マルキーニョスがベンゼマを、キンペンベがアセンシオをマークする。このフリーの受け手が全然ない状態で「出してみろ!」と言われているのはGKクルトワである。
20分前後から何度かこんなシーンがあった。最近はうまくなっているとはいえ足下に自信がないクルトワは怖かったのだろう、大きくドカンと蹴り、相手にボールをプレゼントしていた。レアル・マドリーがボール出しに成功したのは、ミリトンが単独で持ち出した時とクルトワが思い切ってショートパスを出した時の2回だけだった。
プレスによってボール回しを寸断されたレアル・マドリーの攻撃は得意のカウンターも、ボールキープによるリズムダウンもできずに完全に沈黙した。
②ビニシウス封じの駄目押し
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。