昨シーズンはJ1リーグで15位に低迷。このオフにも主力選手の相次ぐ離脱と、柏レイソルを取り巻く環境は今シーズンも厳しいものが予想される。だが、希望の明かりもすでに灯り始めていることは見逃せない。加藤匠人。森海渡。土屋巧。真家英嵩。田中隼人。升掛友護。大学から、提携校から、そしてアカデミーから。6人の精鋭がルーキーとして柏へ加わることになった。彼らのもたらすエネルギーは、間違いなくチームを前へと進ませるはずだ。今回は柏を長年見守り続けている鈴木潤に、太陽王の明るい未来を保証してもらおう。
最優秀育成賞を受賞した柏アカデミーの歴史
下馬評は決して高くはない。
むしろ多くの識者たちは降格候補に挙げている。確かに昨シーズンはメンバー、戦術とも最適の形を見出せず、1年を通じて不安定な戦いを繰り返しながら15位と辛くも残留を決めたうえに、シーズンオフにはクリスティアーノを筆頭に数名の主力選手がクラブを離れたのだから、周囲からの評価が低くなるのも無理はない。おそらく今シーズンも、厳しく難しい戦いが待ち受けていることだろう。
そんな主力選手たちと入れ替わるように、今年は多くの若手選手が加わった。タイミングがタイミングだけに主力選手移籍の穴を若手で埋めたとの見方もされかねないが、今年のチームの若返りに関しては、クラブが数年前から計画的に進めていたものであり、加入した6名のルーキーたちは、いずれも高いポテンシャルを備えた将来性豊かな逸材ばかり。近い将来、いや、早ければ今シーズン中にも柏レイソルの中心選手としての活躍が期待される。
柏のアカデミーは、1990年代には酒井直樹、明神智和といった日本代表クラスの選手をはじめ、現在のトップチームで主力を担う大谷秀和、上島拓巳、古賀太陽など、これまで数多くのプロサッカー選手を輩出してきた。昨年柏が受賞した最優秀育成クラブ賞は、長年にわたって育成に関わってきた大勢の指導者たちの努力の結晶だと言っていいだろう。
2000年代初頭から、当時の日本ではまだ馴染みの薄かったポゼッションサッカーを取り入れ、基本的な技術はもちろん、育成年代の選手たちにポジショナルプレーを浸透させることで、偶発的ではなく意図的に再現性のある攻撃を奏でるスタイルを確立していった。そしてそれが、徐々にアカデミー全体で共有されたコンセプトとして一貫されていく。日本代表に名を連ねる酒井宏樹、中山雄太、中谷進之介もまた、そんなコンセプトの中で育った選手たちだ。
常にチャレンジを志す革新的なマインド
育成に関わった多くの指導者が築き上げた良きコンセプトを継承しつつ、時代に合わせて少しずつマイナーチェンジを繰り返してきた柏アカデミーは、2019年の布部陽功氏のGM就任を機に、新たなチャレンジへと踏み切った。
日本体育大学柏高校と相互支援契約を締結し、柏アカデミーの指導者を同校サッカー部の監督・コーチに派遣することで、アカデミーと日体大柏高が両輪となってトップチームを支えていく。そしてまた、アカデミー自体も巧さだけでなく、勝負にこだわる意識や逞しさを以前にも増して追求し、よりトップチームで活躍できる選手育成への色を強めた。
さらに、アカデミーから大学へ進学した選手たちの動向も継続的に追い続け、U-18から直接トップチームに上がれずとも、大学で成長を遂げれば再び柏に戻ってこられる道筋を作り上げた。現に2019年に中央大学から加入した上島が、大学を経由して柏に帰ってきた初の選手となって以降、2020年には東洋大学から松本健太、今年は筑波大学から加藤匠人、森海渡、さらに2023年シーズンの加入が内定している東京国際大学の落合陸と、その流れは今もなお続いている。
そして今年加わった6名のルーキーは、前述した育成におけるクラブの新たな挑戦の中から出てきた選手ということになるのだ。
大学から帰ってきた加藤匠人と森海渡。日体大柏高から加入した土屋巧
中でも即戦力として期待されるのが、筑波大学から加入の加藤と森だろう。……
Profile
鈴木 潤
2002年のフリーライター転身後、03年から柏レイソルと国内育成年代の取材を開始。サッカー専門誌を中心に寄稿する傍ら、現在は柏レイソルのオフィシャル刊行物の執筆も手がける。14年には自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信中。酒井宏樹選手の著書『リセットする力』(KADOKAWA)編集協力。