1月31日、ブレントフォードがクリスティアン・エリクセンの獲得を発表した。今シーズン終了までの契約で、トッテナム時代(13-19)に226試合51ゴール67アシストを記録したプレミアリーグに約2年ぶりの帰還となる。2月14日に30歳の誕生日を迎えるデンマーク代表MFの再出発に寄せて、北欧サッカーを長年追い続ける佐藤真理子さんに綴ってもらった。
昨年12月にインテルとの契約を解除し、フリーとなっていたクリスティアン・エリクセンのブレントフォード加入が1月31日に決定した。
EURO2020のデンマーク対フィンランド、忘れもしないあの日(2021年6月12日)から約7カ月半での復帰はもちろん喜ばしいことである。ただその一方で、彼の健康面に関して不安や疑問の声が上がるのは致し方ないことだろう。
それに対し、ブレントフォードのディレクターであるフィル・ジャイルズは、エリクセンの今の状態については徹底的にチェックをしたと語っている。移籍が濃厚だとささやかれてから決定までに数日を要したのは、入念なメディカルチェックを行った結果であろう。
ブレントフォードはエリクセンがインテルを離れると聞いた時に、彼の獲得の可能性に関してディスカッションを開始したという。その過程を経て、エリクセンが今、自分たちと共にあることは素晴らしいことだとジャイルズは言う。
現在、エリクセンは古巣アヤックスのユースチームでトレーニングを続けており、新チームへの合流は来週の予定だ。すでに発表された「背番号21」のユニフォームに、彼が袖を通す日もそう遠くはない。
ブレントフォードはどんなクラブ?
さて、プレミアリーグを知る方には既知の情報かもしれないが、エリクセンの移籍先となるブレントフォードとはどのようなクラブなのか、ここで少し紹介したい。
クラブのオーナーはマシュー・ベナムという、スポーツくじの会社でその名を馳せた英国人起業家だ。彼はその会社で、巨額の資金とスポーツくじのシステムに基づく最先端のデータ統計解析の手法という2つの武器を手に入れた。子供の頃からブレントフォードを応援していたベナムはクラブが資金難になった2007年に融資をし、最終的にはオーナーの席に収まった形となっている。
ベナムは2014年、デンマークリーグのミッティランの元選手であるラスムス・アンカーセンの人材育成理論に興味を持ち、彼と接触した。その頃、経済的に苦しい状況に陥っていたミッティランをベナムは買収、すかさずアンカーセンをチェアマンに就任させる。ミッティランはアンカーセンによる育成理論とベナムの持つデータ統計解析の手法を試す、いわば“実験台”にされたのだ。
ともすれば眉を潜められそうな行動でもあるが、その成果はすぐに目に見える形で表れた。デンマークの中堅クラブだったミッティランは買収後の14-15シーズンにリーグ初優勝を果たし、その後も名門クラブであるコペンハーゲンやブレンビーと毎年のように優勝争いをする強豪クラブへと進化した。
このミッティランの成功体験を2人はブレントフォードにも持ち込み、それがやがて74年ぶりのトップリーグ復帰へと繋がることになる。ミッティランとの提携もあり、デンマークコネクションを強めた現在のブレントフォードの監督はデンマーク人のトーマス・フランクであり、デンマーク人選手も複数所属している。エリクセン獲得の地盤はどのクラブよりも最初から整っていたと言えるのかもしれない。
母国の人々はどう受け止めているか
では今回の移籍は、デンマークではどのように捉えられているのだろうか。……
Profile
佐藤 真理子
横須賀市在住。日韓W杯でスウェーデン代表にはまる。現地観戦を時おりこなしつつ、配信等のWEBを利用した“遠距離観戦”で一喜一憂する日々に忙しい。お隣のデンマークやノルウェー代表にも興味津々という北欧好き。