新年の到来は心機一転のチャンス。2022年のイングランドで見違えるような姿を見せ始めた選手に、チェルシーのサウール・ニゲスがいる。昨年9月11日のデビュー戦後、SNS上にあふれたファンによる酷評には「二度と見たくない」という声まであったMFは、今年1月5日に訪れた移籍後の出場12試合目で、「もっと見たい」と思わせるハイパフォーマンスを披露した。
メディアで盛んに報じられた「悪夢」のデビューは、前評判の高さも災いした。アトレティコ・マドリーでの昨季は、リーガ王者でリーグ戦33試合に出場したレギュラー格。1軍デビュー10年目という経験の持ち主だが、ピーク年齢を目前に控えた26歳での加入。スペイン代表を率いるルイス・エンリケが「すべてを備えている」と評した逸材は、昨夏の移籍市場が閉まる間際のレンタル移籍ではあったが、チェルシーが少なくとも4年前から目を付けていた補強ターゲットでもあった。対人の強さとボールさばきの巧さを併せ持つ新戦力と聞けば、初出場に期待の眼差しが注がれても無理はない。
サウール自身も期待を胸にチェルシーにやって来た。それは、本当の自分の再発見。移籍決定直後に祖国メディアで流れたインタビューでは、「過去2、3年の自分には自分で納得がいかない」と語り、万能性が裏目に出て左SBでの起用も増えた古巣を離れた第一声としては、『チェルシーTV』のカメラに向かって「ボックス・トゥ・ボックス型」のセンターハーフだと自己紹介していた。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。