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チャナティップの横で微笑む女性。タイ代表を支える名物実業家の存在

2022.01.12

2年に1度開かれるサッカーの東南アジア選手権、AFFスズキカップが昨年12月5日から今年1月1日まで開催され、タイが6度目となる優勝を飾った。その表彰式で、川崎フロンターレ入りが発表された代表キャプテンのチャナティップ・ソングラシンとともに優勝カップを掲げた女性がいる。タイで抜群の知名度を誇るヌアンパン・ラムサム氏、通称マダム・ペン(以下、マダム)である。彼女はいったい何者なのか、どんな役割を果たしているのか、解説したい。

高い関心を集めるスズキカップ。代表戦は軒並み高視聴率を記録

 まず大会を振り返りたい。今回のAFFスズキカップはもともと、前回同様5チームを2組に分け、グループステージを相手国もしくは自国で行うホームorアウェイ方式(ホームかアウェイかは抽選で決定)で戦い、準決勝、決勝をホーム&アウェイで実施する予定だった。しかし、新型コロナウイルスの影響で開催自体が1年程延期された上、最終的にシンガポールでの集中開催となった。

 タイはグループステージ初戦の東ティモール戦を2-0で勝利し、その後、Jリーグを終えたチャナティップ(当時、北海道コンサドーレ札幌)、ティーラトン・ブンマタン(当時、横浜F・マリノス)が合流。ミャンマーを4-0、フィリピンを2-1、開催国シンガポールも2-0で破り、グループステージ全勝の1位で準決勝に進出した。

 前回覇者ベトナムとの準決勝は1試合目を2-0で先勝すると、2試合目は0-0のスコアレスドローで終えて決勝へ進出。迎えたインドネシアとの決勝は1試合目で4-0という大量リードを奪い、元日に行われた2試合目は先制点を許しながらも2-2で引き分け、2016年大会以来となる東南アジア王者に輝いた。さらにチャナティップが3度目となる大会MVPに選ばれた。

 2018年に行われた前回大会では、当時のミロバン・ライェバツ監督の方針としてJリーグでプレーしていたチャナティップ、ティーラトン、ティーラシン・デーンダー(当時、サンフレッチェ広島)という中核選手を招集せず、マレーシアとの準決勝でアウェイゴールの差で敗れ3連覇を逃している(今回はアウェイゴール廃止)。その雪辱を果たした形だ。

 スター選手を擁する代表の躍進にタイ国内の関心も高く、12月29日のインドネシアとの決勝1試合目は2021年に放送されたテレビ番組(30分以上)の視聴率ランキング1位を記録したほか、同26日のベトナムとの2試合目が2位、同23日のベトナムとの1試合目が3位となり、タイ代表の試合が軒並み視聴率上位を独占した。なお、年が明けた1月1日の決勝2試合目も、2021年の4位に相当する視聴率だった。タイ代表がいまだタイ国民にとってキラーコンテンツであることが証明された形だ。

女性実業家にしてタイ有数の富豪。王族からも一目置かれる存在

 では、冒頭に触れたマダムに関して解説したい。“マダム・ペン”ことヌアンパン・ラムサム氏は1966年生まれ。タイの生命保険大手ムアンタイ生命保険の創業者一族の生まれにして、現在は同じグループのムアンタイ損害保険でCEOを務めている。個人でも有名海外ブランドの輸入販売代理店などを経営。資産家として知られ、政府の公開情報によると総資産は預金や土地など合わせ46億バーツ(約140億円)に及ぶという。現在の夫がタイ警察の高官だったため、夫の資産と合わせて公開されたのだが、いずれにせよ潤沢な資金を有していることに変わりはない。その美貌と気さくなキャラクターでメディアへの露出も多く、一般市民の間で人気は高い。……

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スズキカップタイ代表チャナティップ

Profile

長沢 正博

1981年東京生まれ。大学時代、毎日新聞で学生記者を経験し、卒業後、ウェブ制作会社勤務などを経てフリーライターに。2012年からタイ・バンコク在住。日本語誌の編集に携わる傍ら、週末は主にサッカー観戦に費やしている。

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