ミケル・アルテタ率いるアーセナルがCL出場圏内の4位と好調だ。今夏の移籍で若手中心のチームに刷新され、元日のマンチェスター・シティ戦の、特に前半では前線からのプレスで王者のビルドアップを遮断するなど、内容面でも進境著しい。そこでアーセナルの試合を追い続けるせこ氏に、ポジション別に前半戦のアーセナルの進化を解説してもらった。
開幕3連敗での最下位スタートという悪夢のようなスタートから4カ月。アーセナルは調子を取り戻し、かつての定位置である4位争いを牽引する立ち位置になっている。元日のマンチェスター・シティ戦は最終的に敗れはしたものの、特に前半の内容は質の向上が感じられる内容だった。
今季のアーセナルの特徴は勝利している試合は内容が伴っていることが多いということである。いわば『勝ちに不思議の勝ちなし』という状態である。したがって、ここまで順位を上げたということは最下位だった開幕戦から内容面での上積みが見られるということである。どの部分が変わったのか?ポジションごとに役割を考えながら見ていきたい。
大幅な上積み。注目すべきはビルドアップの向上
開幕時から、今現在のスタメンを比較して最もわかりやすい変化が最終ラインである。脆さを示したシーズン当初からは一変。ホワイト、冨安を獲得し、ガブリエウが復帰した最終ラインはボール非保持の強度で言えばここ数年で最高水準と胸を張れるレベルになった。スピードが豊かでハイラインでの守備が可能になり、対人スキルも申し分なし。DFラインは弱みから一転強みとなり、クリーンシートを重ねている。
ボール非保持の局面以上に変化があったのはビルドアップにおける貢献度である。アーセナルの今季のボール保持のテーマは『少ないチャンスをストライカーが決めるモデルからの脱却』である。わずかな機会を得点に変えてきたラカゼット、オーバメヤンへの依存度を下げつつ、決定機を増やしながらどこからでも点を取れるスタイルにチェンジすることで内容が向上している。
そのスタイル変化に最終ラインは大きく貢献している。ホワイト、ガブリエウ、ラムズデールと足下に自信がある選手がそろったことで最終ラインのパス交換の距離が遠くても、パスワークが安定するようになった。12月の連勝期間は[4-4-2]でのプレスを行うチームとの対戦が多かったのだが、このGK+2CBで相手の2トップに優位にボール保持をすることができていた。
CBが横に大きく開いてボールを受けることで、相手の2トップは横に移動してでも相手についていくか? それとも無理に追わないか? を選択しなければいけない。
アーセナルは相手の選択によってボールの動かし方を変えればいい。相手がついてこなければドリブルで1stラインを越えればいい。ボールについてくれば、2トップの間のトーマスにボールを通せばいい。
今まではGKがビルドアップに絡めないことで2CBが距離を取るのが難しかった。なのでそもそも最終ラインが狭い幅のまま、ボールを前進する必要があった。そうなると上に挙げたような2トップのとの駆け引きは難しい。相手の2トップは狭い幅で守ることが可能になり、アンカーへのパスコースをケアしながらホルダーにチェックすることが容易になるからである。
そのため、アーセナルはセントラルMFをもう1人(主にジャカ)最終ラインに落とすことで幅を取ってのビルドアップを行うことが多かった。これならばある程度相手のプレス隊に対して駆け引きを行うことはできる。しかしながら、ポジションが低い位置に人を増やして課題を解決しているため、ボールが前進した後に人が足りなくなってしまう問題に直面しやすい。
最終ラインのみで相手のプレス隊と駆け引きできるようになったことは、ボール保持の安定感を増すとともに前に人を送り込むことで攻撃の厚みをアップさせるなど多くの面で効果を上げている。
<セントラルMF>スイッチ役のトーマスと多機能なジャカ
ジャカとトーマスという2人のレギュラーセントラルMFの顔ぶれは昨季から変わっていないが、役割は昨シーズンから変わりつつある。……
Profile
せこ
野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。