2021年9月からスタートしたアジア最終予選の日本代表において厳しい評価にさらされている柴崎岳。だが、所属するレガネスでは中盤のレギュラーとして奮闘している。彼の現状について、普段スペインでのプレーを見ている木村浩嗣さんに、日本代表でのパフォーマンスを見たうえで評価してもらった。
これを書くためにめったに見られない日本代表の試合を見られたので、柴崎岳に触れる前にチームへの感想を書いておく。「普段見ているスペイン代表に比べて……」を枕に読んでほしい。
1. 2人の関係性で打開する意識が強い
個の技術や身体能力(スピードやパワー)で抜こうとする。難易度の高いプレーを選択し当然成功率は低い。3人以上の関係性(例えば「第3の男」=パスの出し手ではなく受け手に対してマークを外す)で抜こうとしない。
2. 囮のランが少ない
ボールホルダーの前を横切りマークを引き連れて、スペースを創る動きが少ない。自分が受け手となるためのランばかりである。囮となってスペースを創り、そこを別の選手(3人目の選手)が使うなどのサポートが、全体の突破力を上げる。
3. パスの出し手と受け手の距離が近過ぎる
ボールホルダーに近づく傾向があり、狭いスペースで窮屈なコンビになる。スペインで言う “汚れた状況”(人が密集している状況)をクリーンにするパスを引き出すために、ボールから離れる動きも重要。
4. もっとずる賢く
逃げ切るために、しばらく倒れていることやわざと間違ったリスタートをしてやり直しをしたり、審判に抗議をしたりも必要。それで時間は過ぎるし相手は冷静さを失う。ダーティだがそれもサッカー。リードしている場面で、相手GKがなかなか蹴らないとわざわざFWがプレスをして急かしていた。放っとけばいいのに。
5. 選手交代が遅い
もっと頻繁にもっと前のタイミングで。
以上、たまたま私が見た試合がそうだっただけで普段はちゃんとやれている、ということなら幸いである。
今回チェックしたのは、柴崎が出場した直近6試合のうち、プレー時間が少ないオーストラリア戦とベトナム戦を除く4試合、オマーン戦(ホーム)=先発フル出場、中国戦=先発フル出場、サウジアラビア戦=73分間出場、オマーン戦(アウェイ)=45分間出場。
うち、前半だけで代えられたオマーン戦は明らかに様子がおかしかった。
求められることが違い過ぎたオマーン戦
システムはこの試合だけ[4-3-3]で柴崎は右インサイドMFだった。他の3試合ではほとんどボールホルダーを追い越さなかった彼が、どんどん前へ出る。プレスでも前へ深追いする。ゴール前でセンタリングを待っているシーンも何度かあったし、相手のボール出しを妨害するために[4-4-2]に変更する際には大迫と横並びで2トップのような形になっていた。クイックスタートでスローインする姿も初めて見た。遠藤航、田中碧と組んだMFの中では最も攻撃的で、“右寄りのトップ下”という感じだった。
監督による戦術変更、役割変更があったのは明らかで、それで機能せず個の責任にされたのは気の毒だった。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。