ビジネスマンとして、サッカー人として。ロナウドの新たな挑戦がスタート
12月18日、ロナウドがブラジルのクラブであるクルゼイロの90%の株式を購入し、実質的なオーナーとなった。3カ月前から極秘に準備が行われていたというこのニュースは、ブラジル国内でも驚きを持って伝えられ、一瞬にして世界に報道された。
問題は山積しているが…
クルゼイロはロナウドが16歳の時にプロデビューを飾った古巣であり、ブラジル屈指のビッグクラブだ。しかし創立100周年を迎えた今年、ブラジル全国選手権での史上初の降格から2年連続で2部を戦い、しかも全20チーム中14位で終了、1部復帰をうかがうこともできずに終わったところだった。
ロナウドは今回の買収に際し、こう語っていた。
「僕は戻ってきた。なぜなら、クルゼイロの復活を信じているからだ。クラブは僕に世界への扉を開いてくれた。僕を得点王にしてくれた。チャンピオンにしてくれた。ブラジル代表選手にしてくれた。その後に来るすべてに対して準備をさせてくれた。今度はチームのために僕が扉を開ける番だ」
このニュースに歓喜したのはクラブ関係者だけではない。もちろんサポーターもそうだ。SNS上で全国のサポーターが祝っているのはもちろん、地元ベロ・オリゾンテにあるオフィシャルショップでは、背番号9とロナウドの名前をプリントしたユニフォームがあっという間に売り切れた。
ただし、“恩返し”にはあまりにも多くの難問が山積みだ。ロナウドにとっても大きな挑戦となり、そのためこの発表の2日後から、年末年始の家族旅行もキャンセルして実務に入っているという。
ロナウドはここ数年で4億レアル(約80億円)を投入することを約束している。しかし、クラブは今後10年間のうちに支払うべき10億レアル(約200億円)の債務を負っている。他にも、2020年に所属した監督や選手たちから未払いなどに対する訴訟を起こされている。移籍にまつわる不正に関して調査中の案件もある。今年は給料遅延により、選手やクラブ職員によるストライキもあった。
ロナウドはそれらに対応するため、クラブのサッカー部門に関するすべての書類をチェックするという。というのも、彼はそもそも現役を引退した後、スポーツ代理店を設立して成功を収めるなど、ビジネスマンとしてスポーツ界で活躍しているのだ。
クラブ運営管理の経験も積んだ。2014年にはアメリカでNASL(北米サッカーリーグ)に属するフォート・ローダーデール・ストライカーズの共同経営者となった。これに関しては、常に財政難に苦しみ、2016年に活動を停止することになってしまった。
そして、2018年にはバジャドリー(スペイン)の株主となった。最初は51%、最終的には82%の株式を所有して代表者となった。それ以前のバジャドリーには、収益に対して負債がその3.5倍という時期もあったが、ロナウドが代表となって以降、少しずつ回復。2020年の段階では、その収益が負債額を上回ったと報道されている。
当時のインタビューで、ロナウドはこう語っていた。
「僕たちが取り組んでいる仕事の1つは市場分析だ。 あまりエキサイティングには思えないだろうけど、他に方法はない。サポーターは感情の面で、僕らは運営管理の面で、一緒にクラブを成長させよう」
クラブ、チームの改革に注目
ブラジルのシーズンオフは短い。2022年も1月26日から各州選手権が始まるため、クルゼイロも1月4日にプレシーズンをスタートさせる。
クラブ組織内の人事として、ロナウドはまず、サッカーディレクターの交代を行った。新たに就任したパウロ・アンドレは、現役時代にクルゼイロでプレーしたことがあり、引退後はアトレチコ・パラナエンセでサッカーディレクターを務めた経験もある。何よりロナウドのコリンチャンス時代のチームメイトでもあり、今年半ばからはバジャドリーで選手の観察や契約などを手がけ、ロナウドの仕事の仕方とその哲学を十分に理解している。
また、ピッチの中に関しても再検討している。現在の監督バンデルレイ・ルシェンブルゴ、テクニカルディレクターのヒカルド・ホッシャ、アシスタントコーチのベレッチという主要スタッフは、3人ともロナウドにとってブラジル代表やクラブでの旧知の仲であり、2部のチームとは思えない豪華な顔触れだ。
ただ、今後のプロジェクトを考える上で、ルシェンブルゴの就任から23試合8勝11分4敗という戦績を踏まえてロナウドがどう判断するかが注目されている。そして、もちろん選手についても再評価される。
サッカー人としての夢の実現に向けて
クルゼイロの実質的なオーナーになる前、ロナウドはブラジルメディアへのインタビューでこう語っていた。
「サッカーとは本来、儲かるものだ。クルゼイロほどのデータベースがあれば、それは“金のなる木”であるはずなんだ」
「最小限の成果を上げるのに、天才である必要はない。大切なのは持続可能なマネジメントだ。それを理解し始めたクラブもある」
そして、クルゼイロの代表者となった時にはこう語っていた。
「僕はヒーローとして戻ったわけじゃない。1人で現実を変えるような超能力もない。しかし、僕はクルゼイロに戻ってきた。大きな責任とともに。インテリジェンスのある、中長期的に持続可能な運営管理とともに。そして、900万人のサポーターへの忠誠とともに」
その冷静な姿勢を崩さないロナウドも「クルゼイロに見る夢がある」とも言っていた。多くの野心的な若い選手たちを擁し、勝者のスピリットを持ったチームを作りたい、というものだ。
彼は古巣を救うために寄付をしたわけではない。ビジネスマンとして手腕を振るい、ともに成長し、サッカー人としての夢を実現することを望んでいる。
Photos: XP, Gustavo Aleixo/Cruzeiro, Bruno Haddad/Cruzeiro
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。