実況アナウンサーが監督を務める「AFA会長のクラブ」が1部に昇格
去る12月21日に今季の全日程を終えたアルゼンチンのプリメーラ・ナシオナル(2部リーグ)。全35チームが2つのグループに分けられ、両グループとも複数のチームが僅差で競う激しい首位争いとなって「1部リーグより面白い」と話題を呼んだ。
まずはティグレが優勝して2年ぶりに1部リーグ復帰を達成。その後、上位7チームによって行われたプレーオフを制し、バラーカス・セントラルがAFA(アルゼンチンサッカー協会)創立以来初となる87年ぶりの1部昇格を決めたのだが、このバラーカス、ピッチ外での話題の多いクラブとして注目されている。
7回以上の誤審があった?
何よりも、シーズンを通して議論を巻き起こしたのが「バラーカス贔屓のジャッジ」だ。
バラーカスは「チキ」の愛称で知られるクラウディオ・タピア現AFA会長が現役の選手だった頃、下部組織時代からトップチームでプレーするまで所属したクラブで、引退後は役員となり、その後17年間にわたって会長を務めた「古巣」である。
昨年3月からは長男のマティアス・タピア(25歳)が会長に就任し、次男のイバン・タピア(23歳)は背番号10をつけてチームのキャプテンを担う。ホームスタジアムの名前も「エスタディオ・クラウディオ・チキ・タピア」で、事実上タピア家によってマネジメントされており、メディアからも「タピアのクラブ」と呼ばれているが、試合の判定で恩恵を受けていることが何度も指摘されたのである。
SNSでは疑惑の判定シーンを集めた動画が拡散され、ニュース専門サイト『TN』は「不当なジャッジに助けられて勝点を加算していった」と報道。誤審は少なくとも7回あったと言われ、中でも11月1日に行われた第32節のブラウン・デ・アドロゲ戦では、バラーカスの選手が自陣で明らかなファウルを犯したにもかかわらずブラウンにPKが与えられなかったとして物議を醸した。
采配には評価の声も
また、現役の実況アナウンサーが監督を務めていることも注目の要因となった。AFA会長のクラブを1部に昇格させたロドルフォ・デ・パオリ監督(43歳)は、大手メディア『TyCスポーツ』の看板アナウンサーで、アルゼンチン代表チームの試合の実況も担当する実力者だが、元はプロサッカー選手。22歳の若さで引退を余儀なくされた後、監督養成校に通いながらジャーナリズムを学び、2004年、400人を超える候補者の中からラジオ中継の実況に抜擢されてアナウンサーとしてデビューした。
2007年、当時5部リーグに属していたデポルティーボ・リエストラの監督として指導者のキャリアをスタートさせてからアナウンサーの仕事と監督業を両立し、今年2月からバラーカスの指揮を執っていた。昇格決定後、ベンチに座って咽び泣きながら「サッカーは私の人生そのもの。私は実況しかできない愚か者ではない」と言い、判定をめぐる疑惑については「それを聞かされるのはもうたくさんだ。我われと一緒に上位を争った3チームはいずれも多くのPKを与えてもらっていた」としながら「そのような批判は目標達成のために日々、汗を流した選手たちにとって大きな打撃だった」と悔しそうに語った。
疑わしい判定を非難されながらもデ・パオリ監督の采配そのものを評価する声は少なくなく、有力紙『ラ・ナシオン』のアレハンドロ・カサール記者も「バラーカスはなかなかいいサッカーをするチーム。(贔屓目のジャッジによる)恩恵を受ける必要などなかった」と手厳しく指摘。2部リーグよりも大勢の人の目に留まる1部リーグは「バラーカスの監督と選手たちにとって、疑われ続けた鬱憤を晴らすチャンスの場となるだろう」と語っている。
Photo: Getty Images
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Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。