いよいよ明朝(日本時間12月13日5時キックオフ)、ホームで今季最初のマドリッドダービーを迎えるレアル・マドリー。リーガ第16節終了時点で首位を快走し(12勝3分1敗)、CLでもグループ1位通過を果たした現チームで特筆すべき存在が、前節ソシエダ戦(0-2)でもキレキレの先制点をマークしたビニシウス・ジュニオール(Vinícius Júnior)だ。2017年5月、フラメンゴでプロデビューした直後に16歳としては破格の4500万ユーロ(約58億円)で移籍合意が発表された神童は、翌年の加入から3年半を経てRマドリーの左サイドに君臨。課題とされていた決定力にも磨きをかけ、今季はすでにリーグ戦で10ゴール到達、CLと合わせて公式戦22試合12ゴール7アシストと、ベイルやアザールの存在を忘れさせるほどの活躍を見せている。この頼もしい成長の背景、そしてブラジル代表がカタール行きを決める11月のW杯南米予選でも本領を発揮した21歳のFWに対する母国民の視線を、おなじみの藤原清美さんが現地から伝えてくれた。
ブラジル代表チッチ監督の「決断するのは、それはもう頭が痛かったのなんのって」という言葉とともに、11月の2022年W杯南米予選招集メンバーから外れたのは、10月29日のこと。今季、レアル・マドリーで絶好調のFWビニシウス・ジュニオールだ。21歳の彼は神妙に語っていた。
「招集されなかったことは悲しい。でも、僕がもっと頑張って練習して、もっと良い試合をしなければならないということだ。僕も好調だけど、ブラジルには素晴らしい選手がたくさんいるから。ここぞという時に、僕の番が来るように、クラブで良いプレーを続けたい」
その彼が、黄色のユニフォームを着てブラジル中を沸かせるのには、その後2週間もかからなかった。
マドリー4季目で決定力が飛躍的に向上
2017年、母国ブラジルのフラメンゴで16歳にしてプロデビュー。スピードがあり、相手DFの裏を突くパスへの反応が良い。積極的に仕掛けて、敵のファウルを誘発する。そして何より、大胆なドリブルやフェイント、意表を突くトリッキーなプレーを武器に、全国のサッカーメディアやファンの注目を集めるようになった。
その彼が2018年にレアル・マドリーに移籍してからは、もう少しブラジルで見たかったという残念さと、それ以上に、ロナウジーニョやネイマールに次ぐ“これぞブラジル”とも言える才能を送り出したという誇りによって、国民はスペインからの朗報を楽しみに待つようになった。
ただし、サッカーコメンテーターのジーニョ(元ブラジル代表MF、横浜フリューゲルスでもプレー)は当時からこう言っていた。
「彼はピッチの中での強いパーソナリティを持つ、良い選手だ。ただ、鍛えるべき点はフィニッシュ。決定力が必要なんだ。成長過程にあるからこそ、その部分ではもっと練習を積まなければならない」
スタジオにいた他の出演者たちも、ラストパスの精度や次のプレーを瞬時に選択する視野など、ヨーロッパで磨きをかけてほしいポイントを挙げていた。
ビニシウスはその後、監督の選択肢やEU圏外枠などの状況も含めて適応期間を過ごした後、19-20シーズンからはいよいよスタメンでプレーするようになる。しかし、輝き切れずにいた理由は、やはり決定力不足だとされていた。
20-21シーズンには、さらに出場機会を増やす。今年4月のCL準々決勝リバプール戦では、3-1で勝利した第1レグで2ゴールを決めた。
前述のジーニョもその試合後、慎重に言葉を選びながらこう称えていた。
「これほど重要な試合でああいうプレーができるんだから、彼はすでに世界でもトップレベルの選手の一人だよ。ただ、覚えておくべきなのは、彼は20歳そこそこ。ここまで成長してきたが、まだ磨きをかける時だ。今日のようなプレーによって彼自身の自信、そしてチームメイトや監督の信頼が増すことが、さらなる彼のレベルアップに繋がるだろう」
そして21-22シーズンの今、ビニシウスはレアル・マドリーに欠くことのできない選手へと成長した。クラブのサポーター投票による月間MVPでは、今季だけですでに8月、10月、11月と3度にわたって受賞している。
その飛躍の最大の理由こそが、決定力の向上だ。12月12日の第17節を前にした現時点で、全16試合に出場中のラ・リーガでは10ゴールを挙げて、チームメイトのカリム・ベンゼマ(12ゴール)に次ぐリーグ得点ランキング2位につけている。
なぜ代表では力を発揮できなかったのか?
……
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。