マンチェスター・ユナイテッドのGKトム・ヒートンの“ユナイテッドデビュー”は、クイズマニアにとっても注目のイベントだったようだ。
後半途中から出場
先日、ヒートンが35歳にしてようやくユナイテッドでのデビューを飾った。ヒートンは2002年に10代でユナイテッドのアカデミーに加入し、そこからプロ契約を勝ち取ったが、トップチームでは一度も出番がなかった。その後はローン移籍を繰り返し、2010年にカーディフへ完全移籍。バーンリーやアストンビラを経て、今季から古巣ユナイテッドに復帰した。
そして迎えた12月8日のUEFAチャンピオンズリーグ第6節のヤング・ボーイズ戦で後半途中から出場し、およそ20年越しのユナイテッドデビューを果たしたわけだ。子供の頃からユナイテッドのファンだったヒートンは「この瞬間のためにずっと努力してきた。今夜、ピッチに立てて最高だったよ。1分1秒を満喫した」とクラブTVで振り返った。
試合は1-1に終わったが、ヒートンが出場してからは失点もなく、個人的には“無失点”を達成したことになる。すると試合後、『BBC』のラジオ番組で司会者がこんなクイズをゲストに出した。「ヒートンを除き、最後にCLの試合でGKとしてプレーし、失点しなかったイングランド人は誰?」
パッと思いつくのはヒートンの同僚であるGKディーン・ヘンダーソンだが、彼は今回のヤング・ボーイズ戦を含め、これまでCLで2試合に出場して2試合とも失点している。他のビッグクラブには目ぼしいイングランド人GKが見当たらず、ゲストも答えを導き出せなかった。察しのいい方はお気づきだと思うが「GKとして出場」という言い回しに違和感がある。つまり、普段はGKではない、ということだ。
約10分間を無失点で乗り切る
答えは、ユナイテッドの宿敵であるマンチェスター・シティのDFカイル・ウォーカーなのだ。ウォーカーは2019年11月のCLグループステージのアタランタ戦で、終了間際にGKとして途中出場した。この試合、守護神のエデルソンがケガのためハーフタイムで退き、代わりにGKクラウディオ・ブラボが途中出場していたが、同選手は81分に退場になってしまい、やむを得ず右SBのウォーカーがGKとして投入されたのだ。
ウォーカーは相手の直接FKをセーブするなど、追加タイムを含めた約10分間を無失点で乗り切った。そして、この10分間が驚きの記録を生むことになるのだった。そのシーズンのアタランタは、CL初出場ながらシティに次いで2位でグループステージを突破すると、ベスト16ではバレンシアを撃破。そして準々決勝でパリ・サンジェルマンに惜しくも敗れるも、初挑戦で堂々のベスト8という成績を収めた。
アタランタは、コロナ禍の影響で一発勝負となった準々決勝のPSG戦を除き、同シーズンのCLで7名のGKと対戦して6名からゴールを奪った。唯一、牙城を崩せなかった相手がウォーカーなのだ。その情報がSNSで拡散されると、ウォーカーは「レンガの壁」の写真を載せて「ありがとう、アタランタ」とツイートしたのだ。
ちなみにアタランタは、1-2で敗れたPSG戦でもゴールを決めており、GKケイロル・ナバスの牙城は崩しているのだが、79分から途中出場してきたGKセルヒオ・リコからはゴールを奪えなかった。
というわけで、クイズを出すとするなら「CL初出場となった2019-20シーズンのアタランタは、同大会で9名のGKと対峙して7名からゴールを奪った。では、ゴールを奪えなかった相手GKは、PSGのセルヒオ・リコと、もう一人は誰?」となるのだろう。
こうして見ると、ヒートンの20年越しのユナイテッドデビューは極上の“クイズのネタ”を提供してくれたようだ。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。