11月30日、ホセ・ペケルマンがベネズエラ代表監督に就任した。5年契約で、目標は2026年W杯の出場権獲得となる。
1年分の報酬を前払いか
ペケルマンは2018年9月、それまで6年半にわたって務めたコロンビア代表監督としての任務を終えた後、3年間も指導の現場から遠ざかっていた。その間に世界各国からいくつものオファーを受けながらも断り続けていたことや、スタッフの一部が既にペケルマンの下を離れて新天地で活動していたことなどから、「このままキャリアを終えるのではないか」との憶測もあったが、10月にスペイン『マルカ』紙の取材に応じた際、「自分の軌跡を残せる場所で仕事をしたい」と語り、指導現場復帰に意欲的な姿勢を見せていた。
とはいえ、ベネズエラサッカー連盟にとって今回の交渉が容易だったわけではない。前任のジョゼ・ペセイロ監督が「報酬未払い」を理由に辞任したことからも明らかなように、同連盟が抱える財政難は深刻だからだ。
ペセイロ監督とそのスタッフへの報酬が14カ月間も滞納されたままとなっていた事実にはベネズエラの人々も驚嘆したが、経済的な問題が存在する間は代表監督に著名な指導者を迎えることはほぼ不可能と思われていた。
それでもペケルマンを監督に迎えることに成功した背景には、ベネズエラ政府のバックアップが不可欠だったとの見方が強く、コロンビアのジャーナリスト、ハビエル・エルナンデス・ボネットはペケルマン以下指導陣への報酬について「ベネズエラ政府が支払う」と断言。ベネズエラ人ジャーナリストのハビエル・ラミレスも「連盟と政府が公に認めることは絶対にないが」と前置きしながら、信頼できる筋からの情報として「政府がペケルマンに1年分の報酬を前払いしたことで契約が成立した」と話している。
政府の影響力はどこまで?
ここで懸念されるのが、政府による圧力だ。ペセイロの前に代表を指揮したラファエル・ドゥダメルが監督を辞めた際の決定的な理由が「連盟内部におけるニコラス・マドゥーロ政権の影響力」だったことは記憶に新しいが、今年6月にFIFA正常化委員会による監視下で行われた役員選挙の結果、新会長に選ばれたホルヘ・ヒメネスは同国のデルシー・ロドリゲス副大統領を名付け親に持つマドゥーロ派の人物だ。
また、同じくマドゥーロ派で、ドゥダメルと衝突したペドロ・インファンテは現在も副会長として在籍しており、連盟と政府の関係が相変わらず深いことは明らか。前述のラミレス記者はペケルマン監督によってベネズエラ代表が新たなスタートを切ることについて「大いに期待しているが、チームに正当な評価を下すためには契約通りに報酬が支払われ、政府の関与がなく、安心して仕事に従事できる環境の保証が最低条件」と語る。
なお、ペケルマン監督と一緒に元U-20およびU-23アルゼンチン代表監督のフェルナンド・バティスタも指導スタッフに就任。育成のエキスパートとしてA代表の基盤作りに着手することになっている。
Photo: Getty Images
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。