今年10月に公開した「三笘薫らを変えた方向転換の最新研究。育成から状況判断が必要なワケ」には、多くの反響があった。この記事はサッカー選手の方向転換能力を研究した論文「光刺激による状況判断の有無が方向転換動作に及ぼす影響」について、筑波大学准教授の谷川聡氏にインタビューしたものである。
本記事で谷川氏の研究室に所属し、同論文の筆頭著者である川原布紗子氏に研究のきっかけや結果の考察、そして、現在は指導者として帝塚山学院大学女子サッカー部に所属する立場から感じているトレーニングへの活用の可能性提言を書き綴ってもらった。
研究のきっかけ
方向転換に関する研究を始めたのは、2014年、大学3年生の時にGKからフィールドプレーヤーにポジション変更し、最も効率的にフィジカルを強化する方法を模索していた頃である。当時所属していた筑波大学体育系・図子浩二先生の研究室は、走高跳日本記録保持者の戸邉直人選手をはじめとする陸上競技跳躍種目の関係者が集う研究室であった。その一方で、図子研究室はスポーツの実践現場における問題解決型思考を重視し、現場で発生した課題を研究を介して解明し、その結果を実践現場に直接還元することを方針としていたため、球技種目を専門とする学生も多く集まり、それぞれの実践現場での課題を研究対象としていた。その中で私は、サッカーをはじめとする球技種目特有の動きである方向転換に着目し、研究をスタートさせた。
卒業論文を書き終え、もう少しスポーツ科学に関する専門的な勉強がしたいと修士課程に進学した私は、卒業間際にケガをしたこともあり、当時プレナスチャレンジリーグに所属していたつくばFCで現役を続行しながら、図子研究室において方向転換の研究を両立していく予定であった。しかし、進学して間もない2016年6月、図子先生がご病気のため逝去された。あまりに突然のことで、気持ちの整理もつかないまま、新たな所属研究室を決めなければならなかった。その時、声をかけてもらったのが谷川聡先生である。谷川先生には前年の卒業論文の発表を聞いていただいており、谷川先生の研究室でも方向転換の研究が進んでいたことから、異例の形ではあるが、谷川研究室に迎え入れてもらうことになった。この出会いが方向転換の研究を大きく前進させることになった。
状況判断を伴う素早い方向転換動作の特徴
方向転換という運動は、方向転換する角度や方向転換までの距離、方向転換に用いるステップなど、無数の条件とその組み合わせが考えられる。そこで、サッカーのパフォーマンス構造から方向転換に着目することとし、どのような状況下における方向転換について研究していくかを決めることにまず取り組んだ。サッカーにおけるゲームパフォーマンスに関する研究から方向転換について整理し、プレミアリーグを対象とした研究において1試合に当たりおよそ700回の方向転換を行っている報告や、サッカーは0度から180度まであらゆる方向に方向転換を行っていることを示す研究に加え、ポジション別の検討を実施した報告などに行き着くことができた。その中で、選手として「1vs1でボールを奪うこと」の重要性とこだわりを抱いていたことから守備における方向転換に着目し、ポジション別の検討からDFは90度から180度の方向転換が多いと報告されていたことを踏まえ、DFがボールを奪いに行くためにボール保持者にアプローチをし、そこから斜め後方(135度)に方向転換をするという状況を想定したテストを作成した。……