2021地域CLレポート③「最も過酷な大会」の勝者はクリアソン新宿、2位ISE-SHIMAとともにJFL入れ替え戦へ
11月12日~14日の3日間にわたり開催された1次ラウンドに続き、11月24日~28日の5日間で地域チャンピオンズリーグ(以下、地域CL)の決勝ラウンドが行われた。Jを目指すクラブの登竜門とも言える過酷な大会の全試合をジェイ氏がレポートする。
今季はじめて、現場で取材をさせてもらった地域CL。1次ラウンドは岩手会場のグループBを追っていたため、決勝ラウンドもクリアソン新宿とおこしやす京都に感情移入して観ることになるのだろうと思っていた。事実その視点で西が丘に3日間通っていたのだが、気がつけば4チームそれぞれに思い入れを持つに至っていた。サッカーの力、サッカーの美しさ、過酷さ、残酷さ。夢と現実に浸りまくれるこの大会は、否が応でも参加チームすべてにのめりこんでしまう魔性の魅力があった。
まず驚いたのが観客の多さ。3日間で3連戦の1次ラウンドから少しだけ緩和され、決勝ラウンドは中1日での開催となる。なので初日は平日となるのだが、水曜日の朝だというのにけっこうなお客さん(345人)の入り。入場無料ながら事前申請が必要となっていただけに、ここにいるのは両クラブに関係がある者か、よほどのサッカー中毒者だ。
第1節 11月24日(水)
◇第1試合 FC徳島 × FC.ISE-SHIMA
初戦はグループCを制したFC徳島と、グループA首位のFC.ISE-SHIMAの対戦。どちらも初見だったが、過酷な大会を勝ち上がっただけあって両チームともにレベルの高さを感じさせた。
試合は序盤から動く。
パワーを持って入り主導権を握ったISE-SHIMAが敵陣左サイドでFKを獲得。これを⑪真野直紀が右足インスイングで蹴り込むと、ライナー性のボールが徳島ゴールへ一直線。GKの目前で⑤中田永一がヘッドで合わせてISE-SHIMAが先制した。
その後もISE-SHIMAの攻勢が続き、安定したビルドアップから徳島の3バック脇を2トップやサイドハーフが突いてボールを収め、徳島を押し込んでいく。[4-4-2]のISE-SHIMAに対して[3-5-2]の徳島は2トップ2シャドーでプレスを合わせようとするが、ウイングバックが高い位置を取れずにISE-SHIMAのSBを抑えにいけない。徳島もある程度立て直しながら、ISE-SHIMA優勢の展開で前半を折り返した。
すると後半は流れが一変する。
「もっと主導権を握って点を取れると思ったが、移動の疲れなど社会人独特の影響もあった」(中田)と、ISE-SHIMAの強度がやや落ちたことで徳島が挽回。ポゼッションを確立し、前線に5枚が張れるようになったことで持ち前のサイドアタックが生きてきた。
後半から投入された㊵中林一樹が機動力を生かして前線で起点となり、両ウイングバックの③福島凌と⑪本山遊大が突破力を発揮。さらに途中投入の⑱久保田蓮がライン間でアクセントとなり、終盤は190㎝の茶谷椋の高さを生かしたパワープレーに移行。
徳島は各アタッカーが色を出して躍動したが、ISE-SHIMAも最後の部分で硬く跳ね返す。途中投入の㉑石崎柾が前線でボールキープのうまさを見せ、貴重な攻撃時間を稼いだことも大きかった。1-0で耐え切り、ISE-SHIMAがまず1勝を挙げた。
「最低限(の結果として)勝つことができて良かった。(後半は)思った以上に重かった。初戦の緊張もあったのか、コンディションの持っていき方が難しいなとあらためて感じた」と小倉監督も胸をなでおろしていた。
◇第2試合 クリアソン新宿 × おこしやす京都
午後からは1次ラウンドの再戦となる。前回対戦ではお互いにメンバーを入れ替え、特にクリアソンは11人全員を変更していたため、実質的には初対戦。730人と観客が倍増する中、両者ともに前に前にと進んでいくチーム同士の激しい攻防が繰り広げられた。
ロングキックの応酬で球際の激しさを競い合う展開から、両チームのタレントが各所で違いを作っていく。京都の⑳髙橋康平は2トップのやや下がり目でプレーしながら、サイドに中盤に顔を出し、幅広く組み立てをサポートしてチームを前進させていた。
クリアソンは左ウイングバックの瀬川和樹がサイドで主導権を握る。群馬、山形、山口、栃木とJ2で猛威を振るったレフティは今大会でも重戦車として活躍。どのチームも瀬川にはマークを2枚つけて対応していたが、お構いなしに突破していくシーンが何度も見られた。32分にはその瀬川のクロスから⑳樋口裕平がヘッドで合わせるも、これは京都GK真田幸太がセーブする。
京都も35分にエースFW⑱青戸翔が前を向くチャンスを得るが、これは51小林祐三がブロック。一進一退の攻防ながら、どちらかというと京都の消耗が激しく感じられる状況で前半を折り返した。
それが響いてきたのか、後半はじりじりとクリアソンが圧力をかけ続ける展開に。京都は高さとスピードに優れた⑨イブラヒムを投入してカウンター重視に移行すると、66分にはCKからの逆襲でイブラヒムが抜け出しかけるが、GK岩舘直にストップされる。
試合は泥沼の消耗戦となり引き分け決着の気配が流れ始めるが、試合を決めたのはクリアソン。ハーフウェイライン付近からのチャンスとは言えないFKだったが、瀬川のボールを⑮米原祐が折り返すと、⑳樋口が頭で流し込んで決勝点を挙げた。
ただこの試合のハイライトは試合とは別のところにあった。試合が開始して少し経った頃、スーツ姿にリュックの、体格のいい若者がクリアソンの関係者席に現れた。彼は仲間たちと試合を観戦し、勝利をひとしきり喜び合うと、跳ねるような足取りでスタジアムを後にしていった。聞くところによると、メンバー外となった選手が仕事を一時抜けて観戦に来ていたもので、またすぐに仕事に戻るのだという。クリアソンは『サッカーとビジネスを両立する』ことを目標としており、成山監督も選手たちも「登録メンバー外も含めた30人全員で戦う」ことをたびたびコメントしていたが、それがあまりにも端的に現れていた光景だった。
第2節 11月26日(金)
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Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。