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プレミアリーグ沈没? 異常気象が英国フットボールに与える影響

2021.11.18

 今月、スコットランドのグラスゴーで開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」では、オセアニアの島国であるツバルの外務大臣が膝まで海に浸かりながらスピーチした映像が話題になった。

 しかし、地球温暖化の影響で「沈没」を危惧するのはツバルだけではない。英国のフットボール界も“沈没”の危機に瀕するかもしれないのだ。

スタジアムの移転も困難に

 イングランドでは、毎年のように異常気象が原因で多くの試合が中止になっている。イングランド北西部に位置するカーライル・ユナイテッドも悪天候に弱いクラブだ。イングランド4部に所属する同クラブの本拠地ブラントン・パークは、エデン川とパタリル川の分岐地点のそばにあるため、2005年と2015年には大雨の影響によって川が氾濫し、スタジアムが水没した。

 気候学者のフリーデリケ・オットーによると、気候変動によってイングランド北部で大雨が降る確率は59%も上昇しているという。地球温暖化によって気候変動が起き、それが英国フットボール界にも大きな影響を与えているということだ。

 2015年の浸水について、カーライルのCEOは『BBC』にこう説明する。

 「クラブハウスが2つあったが、どちらもダメになった。改修作業は12月から翌年の10月までかかった。保険を更新しようとしたが、ほとんど受け付けてもらえなかったよ」

 当然、スタジアムの移転も検討したという。「2015年の洪水の前には移転も検討した。そのためには今のスタジアムの土地を売却して新しい場所を見つける必要があったのだが、ここの地価は不安定なんだ。洪水の危険があるため、スタジアム移転やクラブへの出資者を見つけるのも難しい」

 もちろん国も災害を防ぐために2019年から2500万ポンド(約35億円)をかけて水害対策を行っている。それでも洪水が起きない保証はない。「対策工事が行われたとはいえ、我われの保険料は上がる一方だ」とカーライルのCEOは嘆く。

 根本的な原因は、やはり地球温暖化にあるようだ。そのためにも世界規模で「カーボンニュートラル」を目指す取り組みがようやく本格化してきたが、それでも不安は拭えない。イギリス気象庁は、もし二酸化炭素の排出量が減らなければ、イギリスの降水量は2070年には30%も増加すると予測しているのだ。

浸水で芝生にダメージ

 イングランド北部のヨークシャーに拠点を置くタドカスター・アルビオン(イングランド8部)も深刻な影響を受けている。彼らは2015年だけでなく、昨年にもピッチが浸水してクラブの存続が危ぶまれたという。

 「昨年2月に限界に達したよ。我われは5度も水没の被害に遭い、運営費が底をつきたんだ」とアンディー・チャールズワース会長は『BBC』にて振り返る。

 「オンラインで寄付を募ったところ、心優しい人たちが力を貸してくれて何とか存続できたんだ。遠いところからゴミを片付けるためのボランティアに来てくれた人もいる」

 タドカスターの本拠地はウォーフ川のほとりにあり、何度も洪水の被害に遭ってきた。「これまではピッチが浸水しても4~5日で水が引いていた。でも、最近は頻度も上がっているし、量も増えている。そのため1週間も浸水することがあり、そうなると芝生がダメになるんだ」

2015年にウォーフ川が氾濫した際は、橋が崩落するなどの被害が出た

サッカー人口が減少傾向に

 英国では、異常気象により年間6万2500試合ものアマチュアの試合が中止や延期になっているそうだ。アマチュアの試合ならば関係ないと思いがちだが、長期的に考えるとプレミアリーグに影響を及ぼしかねない。英国では、悪天候もあってサッカー選手人口が減ってきているというのだ。

 『Sport England』の調査によると、16歳以上のサッカー人口は2016年の230万人から2020年には190万人にまで減少しているそうだ。少年チームを抱えるアマチュアクラブのカルバリー・ユナイテッドは、この影響を既に感じ始めているいるという。

 同クラブの職員は「以前よりも試合の中止が増えていると思う」と話す。「子供たちも試合ができない。それが続けば、子供たちは『室内で何か他のことをやろうかな?』と思い始める。それが続けばどうなるのか。才能がある子供がフットボールから離れてしまい、プレミアリーグにまで影響を及ぼすかもしれない」

 地球温暖化による異常気象が原因で、世界最高峰と呼ばれるプレミアリーグのレベルが落ちる。このままでは、いつか英国フットボール界が“沈没”するかもしれない。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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