フットボールの国際化に伴い、様々な国の選手が母国を飛び出してプレーしているが、それが実況者を悩ませることがあるという。外国人選手の名前が「放送禁止用語」に聞こえてしまう場合があるのだ。
知名度抜群の「クンツ」
一番有名な例が、元ドイツ代表のシュテファン・クンツである。クンツは1990年代にカイザースラウテルンなどで活躍したストライカーで、ブンデスリーガの得点王に輝いたこともある。しかし国外リーグでプレーしたのはベシクタシュでの1シーズンだけ。さらにバイエルンにも所属したことがなく、代表キャリアも25試合6ゴール。他のドイツの英雄に比べると少し見劣りするが、それでも英国ではフランツ・ベッケンバウアーやユルゲン・クリンスマンに勝るとも劣らない知名度を誇る。
理由は彼の名前にある。「Kuntz(クンツ)」を英国で発音(カンツ)すると、英語の「女性器」と同音になってしまうのだ。元アイルランド代表のミック・マッカーシーは同選手の名前について、英紙『The Guardian』の電子版にてこう説明する。「彼は主にブンデスリーガでプレーしていたので英国のTV局にとって問題はなかった。しかし、(イングランド開催の)EURO 96のドイツ代表に選ばれたことで避けて通れなくなったのだ。実況者たちはTの音を消して“カンズ”と呼んだりして、うまくやりくりしていたよ」
クンツは引退後に指導者の道に進み、今年の夏にはU-24ドイツ代表を率いて東京オリンピックにも出場した。そして今年9月にはトルコ代表の監督に就任。そこで結果を残せばプレミアリーグのクラブに引き抜かれる可能性もあるが、そうなったら英国の実況者たちは再び頭を悩ますだろう。
諦めて「フランコ」と呼ぶ
他の国でも似たような事例があり、2007年にバロンドールを受賞したブラジルのカカーもその一人だ。カカーの名前はスペイン語やイタリア語では「ウンチ」の意味に聞こえてしまう。そのため「Kaká」の発音記号が重要で、「カカー」と語尾を伸ばして呼ばれていた。
レアル・マドリーなどを率いたウェールズの名将ジョン・トシャックがトルコのベシクタシュで監督を務めた際にも似たような問題があったと『The Guardian』は説明する。「トシャック」はトルコ語の「睾丸」の発音に類似していたというのだ。
一方で、元西ドイツ代表のフランコ・フォーダ(Franco Foda)の名前も話題になった。現役時代にブラジル代表と対戦した際、彼の名前が場内アナウンスされるとブラジルのファンが大いに沸いたという。「Foda」の名前がポルトガル語で「fuck」を意味するからだ。ちなみに、フォーダは現在オーストリア代表を率いており、今夏のEURO 2020でポルトガルの放送局は同監督の名前について「フーダ」「フォーディ」など色々と試した後「フランコと呼ぶことにします」と諦めたという。
「ロング・コックス」の意味は?
選手名ではなく、スポンサー名が物議を醸したこともある。1999年、アーセナルのアウェイユニフォームの胸スポンサーは「SEGA」だった。だが「SEGA」はイタリア語で「自慰行為」を意味するため、敵地でフィオレンティーナと対戦した時にはアウェイシャツではなく「Dreamcast」が胸に入ったホームシャツを着用したという。
筆者が覚えているのはEURO 2012でのアイルランドファンのユーモアだ。24年ぶりに欧州選手権に出場したアイルランドは、スペインやイタリアと同じ過酷なグループに入った。そこでアイルランドのファンは、こんなバナーを作成した。
「そっちにはジャビやピルロがいるが、俺たちにはロング、コックスがいる!」
確かに当時のアイルランド代表にはシェーン・ロングとサイモン・コックスという控えアタッカーがいたのだが、サポーターは別にその2人を自慢したかったわけではない。「ロング・コックス」……いわゆる「長いイチモツ」を自慢したのだ!
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。