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シャビ招聘の中で見えた、バルセロナ会長の政治的一貫性と矛盾

2021.11.07

 もう、サッカー界では政治的に正しい立場なんて取っていられない――。バルセロナのシャビ・エルナンデス監督獲得劇の裏から見えたことは、そういうことではなかったか。

カタールには渡航せず

 シャビの移籍には500万ユーロ(約6億5500万円)違約金がかかったと言われている。その半分をシャビが負担すること、カタール時代から半減の年俸を受け入れること、加えて移籍交渉もシャビ主導で行われたことで、“バルセロナ愛の証”という美談仕立てで伝えられている。

 だが、その裏で別の見方もある。ジョアン・ラポルタ会長はカタールへ出向かなかった。代わりに副会長とスポーツディレクターを派遣した。アル・サッド側がラポルタの出席を要求し、出向いていれば交渉の主導権を握れ、違約金額が減額されたかもしれないのに。

 渡航拒否の理由は、彼の政治的信条とクラブイメージの保護のためだと言われている。

 ラポルタにはカタール資本がシャツの胸スポンサーになったこと(2010年から2016年)を激しく批判した過去がある。

 「まるで我われはカタール代表のようだ。今回の合意には濁った“裏”がある」(2010年のスポンサー契約発表時)

 「ソシオは、カタールと汚職まみれのフロントか、ユニセフと清廉なフロントか、どちらかを選べなくてはならない」(2015年の会長選挙キャンペーンで)

 折しも2週間前、ラポルタ率いるソシオ総会で「人権の保護と促進」がクラブ憲章に加えられたばかり。カタールは、アムネスティ・インターナショナルに「移民労働者の権利は向上したが、表現の自由は制限され、女性は法的にも、実際にも差別されている」(要約)と評されている通り、人権面では問題視されている国だ。そのため、ラポルタは「アル・サッドのフロントと一緒に写真に納まるのを避けた」と言われている。

親善試合はサウジアラビアで実施

 ただ、そんな会長の姿勢も、次のようなニュースを目にすると綺麗ごとに過ぎないことがわかる。

 バルセロナは12月14日のマラドーナカップでボカ・ジュニオールと対戦することを決めた。ナポリが参加しない大会に意味があるのかも疑問だが、開催地がサウジアラビアであることに批判の声が集中している。

 同国はアムネスティ・インターナショナルに「表現の自由、集会の自由が厳しく制限されている。人権運動家は実質的に全員が逮捕されるか、収監されている」(要約)とされているのだ。この親善試合開催によって得られる数百万ユーロのギャラには代えられない、ということなのだろうか。

 カタールW杯会場の建設で数千人の移民労働者が亡くなったという調査がある一方で、ラポルタと懇意で人権意識の高いグアルディオラは同国のW杯招へいのアンバサダーだった過去があり、シャビは同大会の現アンバサダーである。

 弁護士である会長の政治的一貫性は美しいとは思うものの、サッカーのグローバル化の中で辻褄を合わせにくくなり、一貫性を維持できなくなっている。それはつまるところ、“長いもの(=お金)には巻かれろ”という残念な結論なのだが……。


Photo: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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