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ラングニックinロシア。「5カ年計画」ですでに批判続出、革命家の船出は?

2021.11.07

昨年レッドブル・グループを離れ、その後の活動の行方が常に話題となっていたラルフ・ラングニックの新たな職場は意外にもロシアのモスクワだった。今年7月にチーム強化と育成のノウハウや、クラブの発展戦略を提供するコンサルティング会社を設立した直後、自身はロコモティフ・モスクワでのSD就任を発表。ロコモティフはラングニックに改革を依頼した最初の顧客ということになった。ロシアでは「我が国のサッカー史において一番の大物」の来訪が驚きとともに伝えられ、普段サッカーをほとんど扱わない一般紙や経済紙も巻き込んで大きな注目を集めている。

 「なぜロシアなのか?」

 今や絶大な影響力を持つラングニックが欧州カップ戦での低調が続き存在感を薄めつつあるロシアのクラブを選んだことに対して多くの国内メディアが疑問を投げかける中、ロコモティフの元広報部長キリル・ブレイドはロシアサッカー界の立場を説明している。

 「ロシアは欧州のスペシャリストたちにとって、リスクから解放される領域だ。例えばウナイ・エメリ(2012年にスパルタク・モスクワを指揮)やロベルト・マンチーニ(2017-18シーズンにゼニトを指揮)のように、たとえここで失敗しても自身の評判が悪くなることはない。西側ではロシアはほとんど見られていないか、ごく断片的に報じられるのみだ。しかも、何か成功があれば注目される。そして、結果がどうなろうとも良い報酬を得ることができる」

 さらに、現在ロコモティフのテクニカルディレクターを務めるトーマス・ツォルンの存在もロシアを選択した一因だろう。半年で解任の憂き目にあったものの、2019-20シーズンにスパルタク・モスクワのGMを務め、ロシア事情を知るラングニックの右腕である。クラブは新SDの招聘に合わせるようにセルビア人のマルコ・ニコリッチ監督を解任。ホッフェンハイムやシャルケでラングニックとともに働いた経験があるマルクス・ギズドルを新指揮官に迎え、現場からフロントまでがラングニック派閥で一本の線として繋がった。

シャルケではラングニック監督の下、トップチームのコーチ陣に入閣していたギズドル(写真左から1番目)

ゼロからのスカウト体制構築。直接、有望株を集める

 7月にロコモティフにやって来たラングニックがまず着手したのは新戦力の獲得だった。

 最初に彼を驚かせたのはロコモティフにはスカウト部門がなかったこと。それまでは仲間内の助言や紹介で選手の獲得が決定されていた。ラングニックはツォルンとともに早急にスカウト部門を作り、「若い才能の獲得と育成が最優先」と25歳以下の選手だけをターゲットとする自身の方針をもとに自ら欧州を回る。

 「若い選手たちを馴染みのないロシアに誘うのは困難」と述べながらもU-23フランス代表MFアレクシ・べカ・べカ、クロアチア代表MFティン・イェドバイ、ユトレヒトのFWジラノ・ケルク、そしてチェルシーでは教え子のトゥヘル監督を説得してトップチームデビューも果たした19歳MFティノ・アンジョリンを獲得。新体制での欧州デビューとなったELグループステージ第1節マルセイユ戦、土壇場で同点ゴールを決めたのは新たに10番を背負ったアンジョリンだった。高給取りのベテラン選手たちが退団し、無名の若者が先発に並ぶ布陣に多くのサポーターがチームの変化を感じ取った。

EL第2節ラツィオ戦、ボールを追って並走するベカ・ベカとアンジョリン

 また、最も物議を醸したのは市内のライバルCSKAモスクワの新星MFナイル・チキニジャンとコンスタンチン・マラディシビリの引き抜きである。現在ロシアのクラブは生え抜きの自国選手をスターに育てようと躍起になっているが、狙った獲物は逃さないラングニックの求心力と、若手選手を育てて欧州主要リーグに売り込みをかけようとするロコモティフの新たなビジョンが勝った。

ラングニックが掲げた「5カ年計画」

 SD就任以降、公の場に登場することのなかったラングニックは10月19日にメディアを集めてプレゼンテーションを行い、2025-26シーズンまでの「五カ年計画」を披露。成長戦略の目標は以下の4項目にまとめられている。……

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ラルフ・ラングニックロコモティフ・モスクワ文化経営

Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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