頂上決戦の面影はそこになく…クラシコが映し出した“発展途上”レアル・マドリーと“選手がうまく見えない”バルセロナという現実
アウェイのレアル・マドリーが1-2で追いすがるバルセロナを振り切った今シーズン初のクラシコ。かつては頂上決戦の名にふさわしい激闘が繰り広げられた宿敵同士の一戦だが、今回はコロナ禍による財政的ダメージやスーパースターの流出により転換期を迎えている両雄の現実を、残酷なまでに白日の下にさらすこととなった。この試合で特に表出した両雄が直面する課題について、山口遼さんに分析してもらった。
誤解を恐れずに言えば、退屈で凡庸な試合だった。
カンプノウにやっと満員の観客たちが戻ってきた最高の環境で行われたクラシコだったが、試合面のクオリティはそれに遠く及ばないものであったと言わざるを得ない。
かつて私たちを魅了し、事実上の世界一決定戦と言っても差し支えなかったあのクラシコは、今はもう存在しないのだと寂しさすら覚えた。
両チームにとって、現在が過渡期であることは間違いない
バルセロナはシャビ、アンドレス・イニエスタに続いてリオネル・メッシまでもがついにチームを去った。セルヒオ・ブスケッツやジェラール・ピケはチームに残っているが、すでに高齢でありピークは過ぎている。レアル・マドリーに関してもクリスティアーノ・ロナウドやセルヒオ・ラモス、ラファエル・バランといった黄金時代の中心メンバーが去っただけでなく、カリム・ベンゼマやトニ・クロース、ルカ・モドリッチなども高齢化し、すでにフル稼働は見込めない状況だ。
どちらのチームもまだ成熟し切ってはいない若手選手を積極的に起用するなど、パフォーマンス的に発展途上なのは理解できる。そのような意味でより及第点を与えられるパフォーマンスだったのはレアル・マドリーであり、彼らがこの試合の勝者であることは偶然ではないだろう。2回目の監督就任となったカルロ・アンチェロッティはコンディションの不ぞろいなベテラン勢、未成熟な若手、チームの象徴たるセルヒオ・ラモスの退団と新戦力のダビド・アラバの順応など、複数の困難が絡み合う難しい状況での就任にもかかわらず、ハイプレスとダイレクトなビルドアップを軸に一定の結果とパフォーマンスを出力している。
より問題が深刻だったのはバルセロナの方だ。彼らは若手選手が起用されている点こそレアル・マドリーと共通しているものの、監督の果たした仕事のクオリティには歴然たる差があった。一見するとピケやブスケッツなどのベテラン、フレンキー・デ・ヨンクやメンフィス・デパイなどの獲得選手、ペドリやアンス・ファティ、最近ではガビも含めた若手選手たちをバランス良く起用していて見栄えは良い。だが、そこにおよそ戦術的な構造やバランスといった概念は存在しない。ピケやブスケッツなどのベテランはパフォーマンスが低下しつつあり、デ・ヨンクは2シーズン経っても一向にバルサのフットボールに適応せず異物感がぬぐえない。さらに言えば、ペドリやファティはクーマンのサポートなしでも輝けるだけのポテンシャルと完成度だったから良かったものの、同じように大黒柱へと成長してほしいガビへの戦術的なサポートは、少なくともこの試合を見る限り感じられなかった。ポテンシャルは特大である一方で、まだまだ伸びしろを残したガビのような選手が、なんの戦術的な保護も受けずにスタメンとして責任を背負わされ、思うようなパフォーマンスを発揮できない様子を見るのは正直忍びなかった。
サッカーは複雑系であり、個人のパフォーマンスとチームの戦術的構造は階層構造の中で相互に繋がっている。チームの戦術としての“フォーメーション”と、個人戦術としての“立ち位置”は決して別々の概念ではなく、戦術的ピリオダイゼーションのスキームではこれらはゲームモデル、プレー原則によって繋がっている。
そのような意味で、バルセロナが抱える最も大きな問題をひと言で言い表せば、「選手がうまくなっていない」ということである。ピケやブスケッツが下手になったように見えるのも、フレンキー・デ・ヨンクがいつまでもバルサのDNAに適合しないのも、ガビが戦術的保護を受けられずに苦しんでいるように見えるのも、すべては「彼らがうまそうに見えない」という点で共通している。「ウォーカーってあんなにうまかったっけ?」という現象を連発させるペップ・グアルディオラとは天と地ほどの差がある。これは、サッカーが複雑系であることをどのチームよりも理解し、ミクロな戦術行動(=個人戦術)が理に適っていることでマクロとして調和の取れたダイナミクス(=チームとしてのパフォーマンス)が表現されることをフィロソフィとしてきたバルセロナとしては致命的である。そのような意味で、クーマンが解任となったのは必然である。とはいえ、彼が解任された今でも、どのような課題を現在のチームが抱えているかは非常に重要な問題だ。バルセロナがシャビを新監督にするにしろ、他の者に任せるにしろ、現在の課題だらけのチーム状態からスタートしなければならないからだ。
そこで今回は、発展途上のレアル・マドリーとまだまだ長いトンネルを抜けられそうにないバルセロナについて、どのような点で両者のパフォーマンスが高まり切っていないと感じたのかをチームごとに見ていき、それぞれの抱える課題やその深刻度について具体的に考察していこう。
アンチェロッティの迷い:強いられたエコロジカル・アプローチ
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Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd