一昔前ならプロキャリアを諦めるしかなかった選手も、今なら転がっているチャンスを見つけることができる。SNSが若い選手たちに新たなチャンスを提供しているようだ。
自ら動画を作って売り込み
エリトオット・ドゥーガンはプロ選手の道を諦めかけていた。16歳の時にイングランド4部のスウィンドンと練習生契約を結んだFWは、18歳にして放出され、行き場所を失った。スウェーデンの下部リーグのクラブに挑戦するも半年で退団し、地元に戻って郵便局で働きながらセミプロのクラブで燻っていた。
以前ならば、彼はそのまま日曜日に地元のアマチュアリーグで“弱い者いじめ”をしながらゴールを量産し、試合後のビールだけが楽しみという生活で時間だけが過ぎ、自分の孫に「俺はプロになるチャンスもあったんだ」と武勇伝を語るような余生を送っていただろう。だが今は“諦めない方法”がいくらでもあるのだ。
もう一度プロの世界を目指そうと決心したドゥーガンは、父親と一緒に自分のゴール集を編集した動画を作成すると、SNSで世界中のチームや指導者に向けて発信したのだ。「郵便局で働くようになって、自分がどれほどサッカーを愛していたか痛感した」とドゥーガンは『BBC』に語った。
彼が使ったのは、全世界で6億人以上の登録ユーザーがいる、ビジネスに特化した『LinkedIn』というSNSである。自身の職歴やキャリアを掲載し、同じ業界、または他の業界の関係者と繋がることができるため、転職やヘッドハンティングで重宝するツールだ。
昨夏、ドゥーガンは『LinkedIn』を通じて世界中のクラブ関係者に何百というメッセージを送り、電話までかけてチャンスをうかがったという。すると、そんな彼に興味を示すクラブがあった。キプロス4部リーグのAPEAアクロティリである。
キプロスでアピールに成功
2週間のトライアルに誘われたドゥーガンは、ギリシャ語など話せるわけもなかったが、迷うことなくスーツケースに荷物を詰めてキプロスへ飛び、見事に入団を勝ち取った。そしてコロナ禍の中で行われた昨シーズン、30試合に出場して24ゴールの結果を残してアピールに成功。今夏、キプロス3部リーグのクーリス・エリミスとプロ契約を結ぶに至ったのだ。
ドゥーガンは難解なギリシャ語にも挑戦しているという。「僕は挑戦が好きなんだ。他の言語を話せるようになりたいしね。それも海外でプレーする醍醐味の1つだと思う」と語るドゥーガンは、地元の住民ともうまくやっているようで「ビンゴ大会に誘われた」そうだ。
キプロス3部リーグは9月の第4週に第1節を迎え、ようやくドゥーガンの新シーズンも幕を開けた。もちろん、ここが彼のゴールではない。キプロスで結果を残し、ゆくゆくはイングランドのプロリーグの世界に身を置く日を夢見ている。
「素晴らしい経験ができているんだ。僕はみんなが憧れるスポーツを仕事にできているのだから文句はない。それに素敵な友達と一生忘れられないような思い出も作れている」
もしかすると、彼は選手として大成しないかもしれないし、ケガなどの不運でキャリアを断たれることもあるだろう。そんな時は、海外で培った語学と経験が必ず彼の人生の糧となるはずだ。だから決して遠回りなんかではない。
これからの時代、もう夢を“諦める理由”はないのかもしれない。少しの努力、少しの勇気、そしてインターネット回線さえあれば、スマホ1つでも必ず夢への一歩を踏み出せる。ちょうどドゥーガンのように。
Photo: Getty Images
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。