「ロンドンで石を投げればパブに当たる」と言われるほど、ロンドンには飲み屋が多い。それと同じように、今イングランドのサッカー界ではある噂がささやかれている。「スタジアムで石を投げれば“チェルシー・アカデミー出身者”に当たる」というのだ。
無論、スタジアムで物を投げるのは堅く禁じられているが、そんな噂が出るくらい、イングランドの試合を観戦に行けば、かなりの確率でチェルシー出身者を見ることができるそうだ。チェルシーユースの情報を発信しているSNSが興味深いデータを掲載していたので紹介しよう。
若手から中堅、ベテランまで
プレミアリーグ開幕節に行われた10試合のうち、実に8試合にチェルシー下部組織出身選手が出場していたという。確かにチェルシーは今季も多くの若手を武者修行に出している。有名なところでは、スコットランド代表としてEURO2020にも出場した有望株のMFビリー・ギルモア(20歳)だ。彼はノリッジにローン移籍しており、リバプールとの開幕戦では当然のようにフル出場を果たした。
一方で、U-19イングランド代表のDFティーノ・リブラメント(18歳)は、今季からサウサンプトンに完全移籍すると、プレシーズンの試合でいきなりアシストを記録。そしてエバートンとの開幕戦でスタメンに抜擢され、チェルシー時代には縁のなかったプレミアリーグの舞台に立つことになった。
若手以外にも、チェルシーユース所属歴のある選手はいろいろなクラブにいる。リーズの攻撃を牽引するFWパトリック・バンフォード(27歳)やバーンリーの中盤のエンジンとなっているMFジャック・コーク(32歳)もそうだ。マンチェスター・シティのDFナタン・アケもユース年代の途中からチェルシーに在籍していたし、ウェストハムのイングランド代表MFデクラン・ライスは14歳で放出されるまで西ロンドンのクラブに所属していた。
そういった選手が各地に散らばっているため、プレミアリーグの開幕節ではブレントフォードvsアーセナルとレスターvsウォルバーハンプトンの2試合を除いた8試合で“チェルシー下部組織OB”が見られたという。
1部、2部で多くの選手が活躍
その中で一番活躍したのは、チェルシーが手放さなかったDFトレボー・チャロバー(22歳)だ。昨シーズンまではローン移籍を繰り返していたが、今季はUEFAスーパーカップで3バックの一角として起用されると、3日後の開幕戦で待望のプレミアリーグデビューを果たし、強烈なロングシュートを決めてみせた。
試合後には「言葉にならない。8歳から所属しているクラブだからね。ゴールを決めた時は、どうすればいいかわからず、膝をついて泣いてしまったよ」と『BBC』のインタビューで喜びを口にした。
ちなみに、彼の実兄であるナサニエル・チャロバーはワトフォードに所属しており、彼もまたチェルシーの下部組織出身だ。昨シーズンの後半にはワトフォードでキャプテンを任されており、今シーズンはプレミアの舞台で兄弟対決が実現するかもしれない。
こうして見てみると、確かに多くのチェルシー出身者がプレミアに在籍しているわけだが、チェルシーの影響力はプレミアだけに留まらない。実はプレミアリーグ開幕節の週末、2部リーグでも同じような現象が起きていたという。
2部リーグの全12試合のうち、実に9試合においてチェルシーのアカデミー出身者がメンバー入りしていたというのだ。コベントリーにローン中のDFジェイク・クラーク・ソルターを始め、ボーンマスに所属するFWドミニック・ソランケ、ミルウォールの中心選手となっているMFジョージ・サビルなど、下部リーグでもチェルシー出身者は奮闘しているのだ。
総計すると、イングランドの1~2部リーグの全22試合のうち、78%に当たる17試合にチェルシー出身者がいたことになる。石を投げてはいけないが、仮にスタジアムで投げたとしたら、チェルシー出身者が綺麗に胸トラップをしてくれるはずだ。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。