2020年10月17日のマージーサイドダービーで前十字靭帯損傷という大ケガを負ったフィルジル・ファン・ダイクが、2021年7月29日のヘルタ・ベルリンとのプレシーズンマッチで285日ぶりに試合出場を果たした。当時名実ともに「世界最高のCB」と謳われていたオランダ人DFは、どのようなプロセスを経て復帰に至ったのか。そして迎える新シーズンでさっそくかつての輝きを取り戻せるのか。本人のSNS投稿と専門家の証言を照らし合わせながら、その可能性を探ってみよう。
ファン・ダイク本人を知る外科医がリハビリを分析
フィルジル・ファン・ダイクの靭帯再建手術が行われたのは2020年10月30日。執刀医は、2011年に英紙『タイムズ』の「英国の外科医100人」にも選出された膝の靭帯手術の専門家、アンディ・ウィリアムズ医師だ。計100人以上のプロサッカー選手やプロラグビー選手の膝にメスを入れ、ダニー・イングス、アダム・ララーナ、サディオ・マネ、アレックス・オックスレイド・チェンバレンと歴代所属選手も担当した実績を持つ彼に、リバプールはファン・ダイクの選手生命を託す。無事に手術が成功して5週間後の12月4日、ファン・ダイクはクラブの新施設AXAトレーニングセンターでリハビリに励む自身の写真をTwitterに投稿した。
サウサンプトン大学病院で膝専門の外科医として働き、ファン・ダイク本人とも交流があるというデイビッド・バレット医師によると、損傷した前十字靭帯は患者自身の半腱様筋腱(ハムストリング腱)や膝蓋腱を移植して再建するのが一般的。自分自身の靭帯を使うため拒絶反応は起こらないが、癒合して血流が再開するのに約10〜12週間かかるという。また術後は靭帯の神経組織が切断されているため膝の動きが脳に伝わらない。目を瞑って膝を曲げると、膝の角度を正確に感じ取れないそうだ。
そこでバレット医師が「患部に負担をかけず膝と脳を繋ぐ神経系の活性化を促すのに効果的」と推奨しているのがプールやスパで行うハイドロセラピーだ。ファン・ダイクもTwitterに投稿した3枚目の写真内で水中歩行訓練を行っており、モニターに映る自分の膝の動きを目で確認。治療箇所をケアしつつ、上半身や体幹の筋力を維持するトレーニングを中心に行っている様子がうかがえる。
チェンバレンもイチオシ!ドバイの最先端施設でリフレッシュ
AXAトレーニングセンターでリハビリの第1段階を終えたファン・ダイクは、リバプールを離れて中東へ飛び立つ。向かったのはドバイにあるナド・アルシバ・スポーツコンプレックス(NASSC)だ。最先端ジム、スパ、陸上トラック、屋外コート、そしてFIFA基準を満たしたサッカーピッチも2面完備する世界最新鋭のトレーニング施設は、テニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチ、プロゴルファーのローリー・マキロイ、サッカー界からはクリスティアーノ・ロナウド、ポール・ポグバ、さらにはチームメイトのモハメド・サラーからも評価されている。
2020年2月のウインターブレイクには、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナルのプレミアリーグクラブも訪れ、トレーニングキャンプを実施。世界中のプロスポーツ選手からお墨付きを得ているNASSCは、ファン・ダイク自身もサウサンプトン時代に利用経験がある。さらに2018年に同施設でリハビリを行った同僚のO.チェンバレンの絶賛もあり、リバプールはUAEへ送り出すことを決断した。……
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田丸 由美子
ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。